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日本のアグリゲーター手数料はほぼ非公開

RE100電力、自然電力(Shizen Connect)、エナリス、JERA Cross、デジタルグリッド、ユニバーサルエコロジー、MCリテールエナジー ── 主要なアグリゲーターの名前は知っていても、各社の手数料率を正確に言える事業者はほとんどいない。

理由は単純で、手数料率を公開しているのはRE100電力の1社だけだからだ。

RE100電力の公開情報(2026年4月時点)

「アグリゲーション業務委託手数料は市場利益に対して5%とし、契約期間は1年または5年から選択可能です。なお、5年契約を選択いただいた場合には初期費用は不要となります。」

出典:RE100電力 プレスリリース(2026年4月6日)/ アグリゲーションサービスページ

RE100電力は自社サイトの比較表で、競合他社を「10%前後(交渉ベース)」と記載している。これが事実だとすれば、日本の一般的なアグリゲーター手数料は市場利益の5〜15%程度と推定できる。ただし、この「市場利益」の定義が各社で統一されているわけではない。ここに落とし穴がある。

「グロス」と「ネット」— 定義の違いが年間百万円の差を生む

アグリゲーター手数料の計算ベースには、大きく分けて2つの方式がある。

計算ベース定義公開例
グロス(総売上)市場で得られた収入の総額。充電コストやペナルティを差し引く前の金額業界相場:総売上の3〜10%(Sympower公開資料による)
ネット(市場利益)総売上から充電コスト・託送料・インバランスペナルティ等を差し引いた後の利益RE100電力「市場利益の5%」

同じ「5%」でも、計算ベースが違えば手数料の実額は倍近く変わる。以下のシミュレーターで、自社の条件に合わせた比較ができる。

手数料シミュレーター — グロス vs ネットの手取り比較
年間総売上(グロス) 1億円
充電・運用コスト率 40%
アグリゲーター手数料率 5%
容量市場収入(年間) 3,000万円
▼ グロスベースで計算した場合
手数料額(年間)
オーナー手取り:
▼ ネットベースで計算した場合
手数料額(年間)
オーナー手取り:

※ シミュレーターの「充電・運用コスト率」には、JEPX購入電力費・託送料・発電側課金・再エネ賦課金・インバランスペナルティ等を含む。実際のコスト率は運用パターン・エリア・市場価格により大きく変動する。

お金はどう流れるか — 3市場×入金フローの全体像

手数料の計算ベースを理解するには、まず各市場からの入金がどのようにオーナーの手元に届くかを知る必要がある。

EPRX
需給調整市場
アグリゲーター
特定卸供給事業者
オーナー
手数料控除後
アグリゲーターが取引主体。手数料・インバランスペナルティ・EPRX取引手数料を控除後にオーナーへ送金
JEPX
卸電力市場
アグリゲーター
オーナー
手数料控除後
アービトラージ収入(安く買って高く売る)。充電コストはここで発生する
OCCTO
容量市場
容量提供事業者
オーナー or アグリゲーター
契約形態による。自社で容量確保契約を締結すれば直接入金。アグリゲーション経由の場合は手数料が適用される可能性あり
「売上の5%」と言われたら、必ず確認すべきこと

① その「売上」に容量市場収入は含まれるか
② 充電コスト(JEPX購入電力費)は控除前か控除後か
③ インバランスペナルティの負担はどちらか(アグリゲーター責任 or オーナー責任)
④ EPRX取引手数料(0.06円/ΔkW・30分)は別途か込みか

海外の運用委託契約 — 「歩合」以外の選択肢を知っておく

日本のアグリゲーター契約はほぼ全て「売上に応じた歩合制(レベニューシェア)」だが、海外では契約の形が5つに分かれている。

❶ レベニューシェア
❷ フロア付き
❸ トーリング
❹ ハイブリッド
❺ SaaS

❶ レベニューシェア(Revenue Share / 歩合制)

相場: 市場利益の5〜15% | 日本のほぼ全アグリゲーターがこの方式

アグリゲーターが蓄電池の充放電を最適化し、市場で得た収益の一定割合を報酬として受け取る契約。市場が好調ならアグリゲーターの取り分も増えるため、収益最大化のインセンティブがオーナーと一致する。ただし本記事で解説した通り、「何に対する○%か」(グロスかネットか)の定義が曖昧だとトラブルの元になる。

不動産で言えば:サブリース業者に「入居者が付いたら家賃の○%をください」と言われるのと同じ構造。

← オーナーが市場リスクを負うアグリゲーター側リスク: 小 →

❷ フロア付きレベニューシェア(Floor + Revenue Share)

英国で拡大中 | 2MWに換算すると最低保証 年1,640〜1,760万円程度 + 超過分を折半

アグリゲーターがオーナーに対し、年間収益の下限額(フロア)を保証する契約。市場収益がフロアを超えた場合、超過分をオーナーとアグリゲーターで折半(50:50が一般的)する。オーナーの収入に下限が設定される代わりに、市場が好調な年のアグリゲーター取り分はレベニューシェアより大きくなる。英国ではStatkraft社が412MW分のBESSに対し、総額£135M(約270億円)を2035年9月まで保証するフロア価格契約を締結した(1MWあたり年間約£41,000〜44,000に相当)。

不動産で言えば:「空室でも毎月○万円は保証します。満室になったら超えた分は折半しましょう」というサブリース契約。

← オーナーのリスク軽減アグリゲーターが下振れリスクを負う →

出典: Statkraft/Gresham House Energy Storage Fund契約(2025年7月発表)、Sympower公開資料

❸ トーリング契約(Tolling Agreement)

英国・米テキサスで主流化 | 欧州相場 €110,000〜150,000/MW/年(2MWで約3,500〜4,800万円)

アグリゲーターが蓄電池の充放電権を一定期間「借り上げ」、オーナーに固定のトーリング料を支払う契約。市場で稼いだ分は全てアグリゲーターの収益となり、オーナーは市場価格に関係なく固定収入を得る。収益の予測可能性が高いため、プロジェクトファイナンス(銀行融資)が組みやすい。英国ではOctopus Energy社がGresham House Energy Storage Fundの568MW分のBESSについて2年間のトーリング契約を締結した(MW単価の料率は非公開)。

不動産で言えば:建物丸ごとの一括借り上げ(マスターリース)。「毎年○○万円を払いますので、運用は全部こちらでやらせてください」という契約。

← オーナーのリスク最小市場リスクはほぼアグリゲーター →

出典: Solar Power Portal(2024年6月)、Modo Energy、Aurora Energy Research

❹ ハイブリッド契約(Hybrid / Partial Toll + Merchant)

蓄電池の容量を分割 | 例:50%をトーリング + 50%をレベニューシェアで運用

蓄電池の容量を分割し、一部をトーリング(固定収入)、残りをレベニューシェア(市場連動)で運用する折衷型の契約。固定部分でキャッシュフローを安定させつつ、変動部分で市場の上振れを取る設計になる。Tesla社は豪州Genex Powerとの50MW案件で、最低保証付きの収益分配契約を締結した(業界初の事例とされる)。

不動産で言えば:5階建てビルの1〜3階は一括借り上げ(固定賃料)、4〜5階はテナント歩合。安定収入と上振れの両取りを狙う構造。

← リスク半分リスク半分 →

出典: Enspired blog、RenewEconomy Tesla/Genex Power契約報道(豪州50MW Bouldercombe案件)

❺ SaaS / ソフトウェアライセンス(Optimization-as-a-Service)

オーナーが自分で運用 | 最適化ソフトに年間利用料を支払う

アグリゲーターに運用を委託するのではなく、市場取引を最適化するソフトウェアにライセンス料(月額または年額の定額課金)を支払い、充放電の判断はオーナー自身(または別の取引業者)が行うモデル。市場運用のノウハウを持つ事業者向け。日本ではShizen Connectが運用代行とSaaS提供の両方を手がけている。

不動産で言えば:不動産管理ソフトだけ契約して、入居者募集も管理も全部自分でやるパターン。

← 市場リスクは全てオーナーソフト会社はリスクなし →

日本ではまだ❶のレベニューシェアが圧倒的だが、GridBeyond(アイルランド系)は米国ERCOT・CAISO市場で❷フロア付きや❸トーリング型の提供を開始している。同社は日本法人(グリッドビヨンド合同会社)を通じてBESS運用にも参入しており、今後、日本の蓄電池市場が成熟するにつれ、海外で主流になりつつある❷❸の契約形態が選択肢に入ってくる可能性がある。

手数料率よりも大事なこと — アグリゲーターの「腕」で年間数千万円変わる

「手数料5%の会社と10%の会社、どちらが得か」。多くの事業者がこの比較から入るが、それは順番が逆だ。手数料率の差よりも、アグリゲーターの運用の巧拙による売上の差のほうがはるかに大きい

英国の実績データ:同じ市場で30%の収益差

英国の蓄電池市場分析会社Modo Energyは、2025年上半期に英国で稼働する全蓄電池の収益を比較した。結果は以下の通りだ。

1MWあたり年間収益2MW換算(参考)
上位のBESS£100,000超(約2,000万円)約4,000万円
全体平均£69,000(約1,380万円)約2,760万円
差額£31,000超(約620万円)約1,240万円

※ £1=200円で換算。容量市場収入を除く。出典: Modo Energy "GB BESS: Why top-performing batteries earn 30% higher revenues"(2025年7月)

同じ英国の電力市場に接続され、同じ制度の下で運用されている蓄電池同士で、年間30%以上の収益差が出ている。Modo Energyの分析では、ある上位バッテリー(Jamesfield 2)は最下位と比べて充放電回数が15%少ないにもかかわらず高収益を上げていた。たくさん動かして稼いでいるのではなく、市場価格の読みと売買のタイミングが上手いから稼げている。

米国テキサスの実績データ:最適化の差で48%の収益差

米国テキサス(ERCOT市場)でも同様の傾向がある。Gridmatic社が2024年に89台のBESSを分析したところ、同社が最適化を手がけた1基は全体平均より48%高い収益を上げていた。サンプル数こそ1基の事例だが、最適化アルゴリズムの質が収益に直結することを示す実例だ。

日本の2MW/8MWhに当てはめると

海外のデータをそのまま日本に適用することはできないが、「アグリゲーターの運用品質で3〜5割の収益差が出る」という構造は日本でも同じだ。48コマのうち何コマで約定できるか、どの時間帯にどの市場に入札するか、JEPX裁定のタイミングをどう最適化するか ── 全てアグリゲーターの判断で決まる。

以下は、手数料率だけで選んだ場合と、運用力を重視して選んだ場合の手取り差の試算だ。

アグリゲーターA
(安いが平凡)
アグリゲーターB
(高いが優秀)
年間総売上7,000万円1億円
充電・運用コスト(40%)▲2,800万円▲4,000万円
市場利益(ネット)4,200万円6,000万円
手数料率(ネットベース)5%10%
手数料額▲210万円▲600万円
オーナー手取り3,990万円5,400万円

手数料率はBの方が2倍高い。にもかかわらず、運用力の差で年間売上が3,000万円多いため、オーナーの手取りはBの方が年間1,410万円多い。20年間では約2.8億円の差になる。手数料率だけで選ぶと、この差を見落とす。

「安さ」で選んではいけない理由

アグリゲーターを選ぶ際に最も重要なのは、過去の運用実績(1MWあたりの年間収益額、約定率、稼働率)を開示できるかどうかだ。手数料率は交渉で動かせるが、運用力は簡単には変わらない。

2026年3月改正 — パイが縮小した今、手数料交渉はさらに重要

2026年3月13日、需給調整市場の取引制度が大きく変わった。

変更点旧制度新制度
取引方式週間ブロック入札前日取引(30分コマ)
ΔkW上限価格19.51円/ΔkW・30分15.00円(段階的に7.21円へ)
入札判断頻度週1回毎日14時締切

上限価格の引き下げは、需給調整市場からの収益プールを直接縮小させる。パイが小さくなった分、その中からアグリゲーターがいくら持っていくかの交渉が、以前にも増して重要になっている。

一方で、前日取引化はアグリゲーターの業務負荷を大幅に増加させた。週に1回の入札判断が毎日に変わり、30分コマ単位の価格予測と最適化が必要になる。高度なアルゴリズムと24時間体制を持つアグリゲーターとそうでないアグリゲーターの間で、運用品質の格差がさらに拡大する可能性が高い。

アグリゲーター契約の前に確認すべき5つのポイント

「特定卸供給事業者」の登録状況

アグリゲーターとして需給調整市場に参加するには、電気事業法に基づく「特定卸供給事業者」としての登録が必要。2026年3月時点で142社が登録済み。また、2027年4月以降はJC-STAR★1準拠のIoT端末(PCS制御機器)が系統連系の要件となる方針が示されている。アグリゲーターが使用する制御機器がJC-STAR対応かどうかも、2027年以降の事業継続性に直結する確認事項である。

データの留意点

① 手数料率は個別交渉の結果:本記事で示した料率はあくまで公開情報に基づく目安であり、案件規模・契約期間・蓄電池仕様によって変動する。複数のアグリゲーターから見積りを取って比較することを推奨する。

② 海外の料率は直接比較できない:日本と海外では市場構造・電力価格水準・規制環境が異なる。海外のトーリング料(€110,000〜150,000/MW/年)をそのまま日本に適用することはできないが、契約構造の考え方は参考になる。

③ 運用品質データは海外市場のもの:日本の系統用蓄電池市場はまだ黎明期であり、アグリゲーター間の運用品質を定量的に比較した国内データは公開されていない。市場の成熟に伴い、Modo Energyのようなベンチマークサービスが日本にも登場する可能性がある。

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