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分析の前提

本記事のデータは、電力需給調整力取引所(EPRX)が公開する2025年度(2025年4月〜2026年2月)の取引実績に基づく。不足率は「(募集量 − 落札量)÷ 募集量 × 100」で算出した。不足率が高いほど、その商品・エリアにおいて調整力の供給が足りていないことを意味する。

需給調整市場には7つの商品がある。一次調整力(オンライン)、一次調整力(オフライン)、二次調整力①、二次調整力②、三次調整力①、三次調整力②、そして複合商品である。このうち蓄電池が主に参入しているのは一次(オンライン+オフライン)と複合の3商品で、本記事ではこれらを中心に分析する。

なお、需給調整市場では広域融通(エリアをまたいだ調整力の調達)が行われるため、「電源属地別」と「TSO別」で数値が異なる。本記事ではTSO別(各エリアの送配電事業者が実際に調達した量)のデータを使用している。

出典: 一般社団法人 電力需給調整力取引所 取引実績(確報値)
https://www.eprx.or.jp/information/results.php
「不足率96%」= 停電リスクではない。本記事の不足率は、あくまで需給調整市場で調達できなかった割合を指す。送配電事業者(TSO)は市場で調達できなかった調整力を、火力・揚水発電所との随意契約や自社電源への直接指令で確保しており、実際の系統運用に支障は生じていない。現時点では調整力の大部分がこうした旧来の相対契約で賄われており、市場で取引されているのはごく一部にすぎない。不足率が高いということは、市場調達への移行がまだ進んでおらず、新規参入の蓄電池にとって約定余地が大きいことを意味する。

一次調整力(オンライン)— エリア別年間不足率

一次調整力のオンライン商品は、複合商品と並び蓄電池の取引量が最も大きい市場の一つである。全国の年間不足率(加重平均)は59.2%で、エリアによって大きな差がある。

北海道
供給過剰
6.89円
東北
不足 76.6%
5.98円
東京
不足 88.8%
8.86円
中部
不足 77.4%
10.08円
北陸
不足 41.3%
2.22円
関西
不足 45.0%
3.37円
中国
不足 24.8%
2.55円
四国
不足 13.0%
3.98円
九州
不足 66.9%
6.25円

(緑色=充足分。灰色=不足分。右端の数値は年間平均落札単価(落札のあったブロックの単純平均)。単位: 円/ΔkW・30分)

東京(不足88.8%)、中部(不足77.4%)、東北(不足76.6%)の3エリアでは不足率が7割を超え、調整力の供給が圧倒的に不足している一方、四国(不足13.0%)や中国(不足24.8%)では比較的充足が進んでいる。北海道は揚水発電機の随意契約により供給過剰の状態にある。

一次調整力(オフライン)— 蓄電池が97.8%を独占する市場

一次調整力には、オンラインのほかに「オフライン」商品がある。オンラインとオフラインの区分は、事業者が自由に選べるものではない。EPRX取引規程により、一次オフラインに参入できる蓄電池は設備容量1MW以上10MW未満(電圧階級が特別高圧または高圧)か、1MW未満の蓄電池をアグリゲートする場合に限定されている。つまり、10MW以上の蓄電池は一次オフラインに参入できず、一次調整力への参加にはオンライン接続が必須となる。

このオフライン市場では、実態として蓄電池が落札量の97.8%を占めており、火力発電・水力発電の参入はゼロである。

全国年間不足率: 96.6% — 5商品中で最も深刻な不足
蓄電池の落札シェア: 97.8% — 蓄電池とVPP(2.2%)だけで構成される市場
年間平均落札単価: 14〜19円/ΔkW・30分 — オンライン(2〜10円)の2〜3倍
北海道
不足 98.8%
14.47円
東北
不足 99.5%
19.40円
東京
不足 91.3%
14.99円
中部
不足 98.3%
19.38円
北陸
不足 99.7%
19.15円
関西
不足 98.0%
14.62円
中国
不足 99.2%
19.36円
四国
不足 98.9%
18.95円
九州
不足 93.4%
19.24円

オンラインとは対照的に、全エリアで90%以上の不足が続いている。東京が91.3%で最も「マシ」だが、これは東京エリアに蓄電池が最も多く参入しているためである。北陸・東北・中国では募集量のほぼ全量が未充足のまま推移している。

単価が14〜19円とオンラインの2〜3倍でありながら、なぜこれほどの不足が続くのか。理由は、10MW以上の蓄電池は制度上オフラインに参入できず、オフラインに入れるのは10MW未満の小型蓄電池に限られるためである。そのような小型蓄電池自体がまだ市場にほとんど存在しないことが、96.6%という不足率の主因となっている。

一方、オンラインにはオフラインにない利点もある。TSO通信回線を持つ蓄電池は、一次オンラインだけでなく複合商品・二次①など複数の商品に入札でき、時間帯や市場環境に応じた収益スタッキングが可能になる。オフラインの高単価は魅力的だが、入札先が一次オフラインの1商品に限定される点はトレードオフとなる。

月別の推移を見ると、蓄電池の参入拡大により不足率は徐々に低下しているが、2026年2月時点でも91.7%と、供給が圧倒的に不足している。

落札単価はほとんどのエリアで上限価格(旧制度19.51円、新制度15.00円)に張り付いており、オンライン(2〜10円)の2〜3倍である。蓄電池事業者にとって、一次オフラインは最も単価が高く、かつ約定確度が最も高い商品といえる。

二次調整力① — エリアによって供給過剰と不足が混在

二次調整力①は、2024年4月以降ΔkW(容量)の調達自体は広域市場マッチングで行われているが、実運用(LFC制御)はエリア内で完結する。調整力の実効的な供給がエリア内の電源構成に依存するため、エリア間の格差が一次以上に大きくなっている。

北海道
供給過剰
6.11円
東北
不足 59.1%
2.94円
東京
不足 79.1%
2.88円
中部
供給過剰
2.45円
北陸
供給過剰
2.00円
関西
不足 2.3%
4.49円
中国
供給過剰
2.00円
四国
不足 13.8%
3.53円
九州
供給過剰
1.69円

東京(不足79.1%)と東北(不足59.1%)が大幅な不足状態にあり、関西(不足2.3%)・四国(不足13.8%)はほぼ充足、北海道・中部・北陸・中国は供給過剰である。九州も年間通算では供給過剰だが、年度前半には不足が発生した月もあり、安定的な充足とは言い切れない。二次①は実運用(LFC制御)がエリア内で完結するため、東京・東北に蓄電池が参入した場合の約定確度は非常に高い。

二次②・三次①・三次② — ほぼ充足済みの市場

残る3商品は、蓄電池にとって参入メリットが限定的である。二次②は全エリアで大幅な供給過剰(全国 -120%)、三次②もほぼ充足(全国1.4%)である。三次①は東京(13.7%)を除き供給過剰ないし充足している。

商品×エリアのクロス集計 — 不足率ヒートマップ

主要5商品について、年間不足率をエリア別にまとめた。赤が濃いほど不足率が高い(=蓄電池の約定確度が高い)。

一次
オフライン
一次
オンライン
二次①三次①複合
東京91.3%88.8%79.1%13.7%28.8%
中部98.3%77.4%過剰過剰21.6%
東北99.5%76.6%59.1%過剰4.2%
九州93.4%66.9%過剰過剰22.3%
関西98.0%45.0%2.3%過剰6.6%
北陸99.7%41.3%過剰過剰6.1%
中国99.2%24.8%過剰過剰14.8%
四国98.9%13.0%13.8%過剰10.6%
北海道98.8%過剰過剰0%-1.3%

一次オフラインは全エリアで90%超の不足が続いており、ヒートマップ上ではすべて最も濃い赤で染まっている。オンラインでは北海道が供給過剰だが、オフラインでは北海道も98.8%の不足であり、蓄電池にとっての参入余地はエリアを選ばない。

蓄電池の参入状況 — 一次だけでなく複合にも分散

電源種別別の落札データ(2025年10月〜2026年4月速報値)を見ると、蓄電池の落札量は一次調整力と複合商品にほぼ等量が配分されている。

蓄電池の落札量ベースの配分を見ると、複合(37.7%)と一次オンライン(37.1%)がほぼ同量でトップ、一次オフライン(17.8%)が3番目に続く。二次①以下は合計7.4%にとどまる。一次オフラインの単価はオンラインの2〜3倍と高いが、オフラインに参入できるのはTSO通信回線を持たない小型蓄電池のみであり、現在稼働している蓄電池の大半は10MW以上の大型案件であり、制度上オンラインに限定される。この配分比率は蓄電池事業者の「選好」ではなく、設備容量に基づく制度的な振り分けを反映している。

一次オンラインにおける蓄電池のシェアは19.7%だが、一次オフラインでは97.8%に達する。月別の推移を見ると、蓄電池の一次オンラインにおけるシェアは半年間で14.3%から22.5%へと拡大し、制度変更(2026年3月13日)後もその水準を維持している。

注目すべきは、蓄電池のシェアが20%を超えてもなお、一次オンラインの不足率は88.8%、オフラインは96.6%という水準にあることである。追加的な蓄電池の参入余地は依然として大きい。

出典: EPRX 取引実績(速報値)電源種別別 2025年10月〜2026年4月
※ 冒頭の「2025年4月〜2026年2月」は年間不足率の集計期間。本セクションのデータは電源種別別公開データの対象期間に準じる。

広域融通(連系線)の利用状況

需給調整市場では連系線(エリア間の送電線)を通じた広域融通が行われる。週間取引における連系線確保量の利用率(年間集計、確保量÷上限値)を主要回廊ごとに示す。

北海道→東北(逆方向47.2%)と中国→九州(順方向23.3%)の利用率が高い。これは北海道の揚水余剰が東北に、九州の調整力が中国に流れていることを示す。東北→東京の順方向(20.8%)は、東北の余剰調整力が東京の不足を一部補填している実態を反映している。

蓄電池の立地選定にあたっては、この広域融通の流れも考慮に入れる必要がある。調整力が流入するエリア(東京など)よりも、流出元で供給を増やすほうが、連系線の制約に左右されにくい場合がある。

ある1日のスナップショット — 2026年4月1日(48コマ)

年間平均だけでは、日々の市場がどのような状態にあるかが見えにくい。ここでは2026年4月1日(水曜日、2026年度初日)について、30分コマ単位でエリア別の募集量と落札量を可視化する。

グラフ上でマウスを動かす(またはタップする)と、各コマの詳細データが表示される。緑色のバーが落札量(充足分)、灰色が不足分を示す。供給過剰のコマは青色で超過分を表示する。タブで商品を切り替えると、各エリアの不足状況がどう変わるか比較できる。

一次オンライン
一次オフライン
二次①
三次①
複合
不足(未充足分) 落札量(充足分) 供給過剰分

一次オフラインに切り替えると、四国は48コマすべてで落札量ゼロ(不足率100%)である。四国エリアでは2025年8月に初の系統用蓄電池(12MW)が稼働したが、一次調整力への応札は確認されていない。一方、東京でも不足率は33.2%で一次オンライン(36.3%)に近い水準まで改善しているが、それでもなお3割以上が未充足である。となっている

出典: EPRX 取引実績(速報値)2026年4月
https://www.eprx.or.jp/information/results.php

季節別スナップショット — 夏のピーク日と冬のピーク日

4月1日のスナップショットだけでは、季節による変動が見えない。ここでは2025年度中で不足率が特に高かった夏と冬の各1日について、商品別・エリア別の募集量と落札量を比較する。

なお、この期間は旧制度(週間ブロック入札)であり、1日あたりのコマ数は春のスナップショット(48コマ)とは異なる。ここではコマ別ではなく、1日の合計値でエリア間の違いを見る。

一次オンライン
一次オフライン
二次①
三次①
複合
不足(未充足分) 落札量(充足分) 供給過剰
出典: EPRX 取引実績(確報値)2025年度 一次調整力・二次調整力①・三次調整力①・複合(システム約定結果、TSO別)

一次調整力(オンライン)は夏(全国62.8%)のほうが冬(47.0%)より不足が深刻である。東京エリアは夏に96.6%、冬でも75.7%と、年間を通じて慢性的に不足している。中部も夏96.7%と東京並みの水準になる。

二次調整力①は夏に東京97.7%と募集量のほぼ全量が不足する一方、冬は全国で供給過剰(-10.8%)に転じる。三次①は夏でも全国17.8%と不足は限定的で、冬は完全な供給過剰(-26.7%)である。

この季節変動のパターンは、蓄電池事業者の運用戦略に直結する。一次・二次①を主力とする場合は夏場が最大の収益機会であり、三次①に依存する場合は春以外の約定確度が大きく低下する。

容量市場のエリア別約定単価

需給調整市場に加えて、蓄電池の収益を構成するもう1つの柱が容量市場である。2024年度実施メインオークション(2024年10月実施、2028年度実需給分)のエリア別約定単価を示す。

エリア約定単価(円/kW)上限価格比
北海道・東北・東京14,812円/kW上限価格で約定
九州13,177円/kW上限の89%
中部10,280円/kW上限の69%
北陸・関西・中国・四国8,785円/kW上限の59%

北海道・東北・東京が上限価格の14,812円/kWで約定しており、最低エリア(北陸・関西・中国・四国の8,785円/kW)との差は約7割に達する。同じ蓄電池を設置しても、容量市場からの年間収入がエリアによって大きく異なることを意味する。

出典: 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2028年度)」(2025年1月29日)
https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2024/20250129_youryouyakujokekka_kouhyou.html

3市場の組み合わせで見るエリア特性

蓄電池の事業性は、需給調整市場・JEPX・容量市場の3市場の組み合わせ(スタッキング)で決まる。3市場の観点でエリア特性をまとめた。一次調整力はオンライン+オフラインの合算不足率を記載している。

エリア需給調整市場
(一次 合算不足率)
容量市場
(約定単価)
JEPX
(価格特性)
中部90.3%(最大)10,280円産業需要大
東京89.5%14,812円(最高)需要大・安定スプレッド
東北84.1%14,812円(最高)再エネ余剰・昼間低価格
九州76.7%13,177円太陽光余剰・ダックカーブ顕著
関西66.1%8,785円需要大・比較的安定
北陸64.1%8,785円小規模市場・水力豊富
中国55.9%8,785円中規模市場
四国34.9%8,785円小規模市場
北海道16.5%14,812円(最高)風力増加・冬季需要高

一次調整力をオンライン+オフラインの合算で見ると、中部(90.3%)が東京(89.5%)を上回り最大の不足率となる。これはオフライン募集量に対する中部の大きなウェイト(62%)が反映されている。容量市場の単価と合わせて総合的に評価すると、東京・東北が需給調整市場と容量市場の両面で最も有利なエリアといえる。

データの留意点

① 2026年度以降の制度変更:2026年3月13日から前日取引化・上限価格の引下げ(19.51円→15円)が実施されている。なお、15円は段階的引下げの第1段階であり、競争環境の改善状況に応じて今後10円、7.21円へのさらなる引下げが予定されている。本記事の年間データは2025年度(旧制度下)のものであり、2026年度以降は市場環境が変化する可能性がある。

② 不足率は「蓄電池だけの指標」ではない:不足率が高いエリアに蓄電池が大量に参入すれば、不足率は低下し、約定価格も下がる。現在の不足率が将来も続く保証はない。

③ 広域融通の影響:TSO別の落札量にはエリアをまたいだ広域融通分が含まれる。電源属地別で見ると不足率の分布が異なる場合がある。

④ 日ごとのばらつき:スナップショットで示したように、同一エリアでも日によって不足率は大きく変動する。年間平均と特定日のデータを直接比較する際は注意が必要である。

⑤ オンラインとオフラインの区別:一次調整力にはオンライン・オフラインの2商品がある。オフラインに参入できる蓄電池は設備容量10MW未満(電圧階級が特別高圧または高圧)に限定されており、10MW以上の蓄電池は一次調整力への参加にはオンライン接続が必須となる(EPRX取引規程)。両者は価格水準・蓄電池シェアが大きく異なるため、事業計画ではこの区別を正しく反映する必要がある。

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