COLUMN 06 — 権利譲渡の実務

接続検討回答後の設備変更
— 何が変わり、何が変わらないのか

開発権を取得する際、買い手が最も気にする論点の一つが「接続検討回答書に記載された蓄電池やPCSを、自社で使いたい別メーカーに変えられるのか」。結論から言えば、多くのケースで変更は可能です。ただし、手続きの種類と条件を正しく理解しておく必要があります。

接続検討回答書に書かれた設備は「前提条件」であって「指定」ではない

接続検討を申し込む際には、設置予定の蓄電池(BSS)やパワーコンディショナー(PCS)のメーカー・型番・仕様を記載します。送配電事業者はこの情報をもとに系統への影響を検討し、連系条件と工事負担金を回答します。

ここで重要なのは、回答書に記載された設備仕様は検討時の前提条件であって、その設備の使用を義務づけるものではないという点です。買い手が権利を取得した後、別のメーカーの蓄電池やPCSを採用することは制度上可能です。

核心ポイント:接続検討回答で確定するのは「系統側の条件」

接続検討回答書が確定させるのは、接続点(どの変電所・鉄塔に繋ぐか)、連系電圧(66kV、154kVなど)、工事負担金の概算額、系統側に必要な増強工事の内容、です。

これらは系統側の条件であり、需要家側(蓄電池事業者側)の設備仕様とは本質的に異なります。つまり、系統側の条件を変えない範囲であれば、事業者側の設備は変更可能です。

設備変更の3つの手続き — 「不要」「要否確認」「再検討」

設備変更の手続きは、変更の内容に応じて3段階に分かれます。

変更の種類手続き期間費用
系統に影響しない変更(同等仕様の機器交換)手続き不要(技術要件確認書で対応)なし
系統影響の有無が不明確な変更(メーカー変更、PCS仕様変更等)接続検討の要否確認(OCCTO様式)原則1ヶ月なし
系統に影響する変更(出力増加、接続点変更等)再度の接続検討2〜3ヶ月約20万円
出典:OCCTO「発電設備等系統アクセスの流れ」/ 各一般送配電事業者の系統連系手続き要領

「接続検討の要否確認」— 最も重要な手続き

蓄電池やPCSのメーカーを変更する場合、通常は「接続検討の要否確認」という手続きを利用します。これはOCCTO(電力広域的運営推進機関)が定めた正式な手続きで、高圧用・特別高圧用の依頼書様式が公開されています。

接続検討の要否確認とは:

発電設備等の全部もしくは一部、または付帯設備の変更を行う場合に、接続検討が必要かどうかを送配電事業者に確認する手続き。

対象:蓄電池本体の変更、PCS(パワーコンディショナー)の変更、付帯設備の変更
申込先:連系先の一般送配電事業者
回答期間:原則1ヶ月
費用:無料(要否確認自体に検討料はかからない)

回答は「再検討不要」または「再検討が必要」のいずれかで返ってくる。
出典:OCCTO 系統アクセス手続き様式集 https://www.occto.or.jp/access/kentou/youshiki.html

「再検討不要」となるケースの条件

再検討不要となりやすい条件:

発電出力(kW)が変わらない — 50MWの案件で50MWのまま機器を変える場合
連系電圧が変わらない — 66kV連系のまま
接続点が変わらない — 同じ変電所・鉄塔への接続
力率や高調波特性が同等以上 — 新しいPCSの電気的特性が元のPCSと同等
短絡容量への寄与が同等以下 — 系統の安定性に悪影響を与えない

つまり「系統から見たら同じに見える」変更であれば、再検討は不要になります。

「再検討が必要」となるケース

⚠ 再検討が必要となる典型的なケース:

発電出力の増加 — 50MWを60MWに増設する場合など
接続点の変更 — 別の変電所に接続先を変える場合
連系電圧の変更 — 66kVから154kVに変更する場合
系統に与える電気的特性が大幅に変わる場合

東北電力ネットワークは「発電設備等の仕様等の変更がある場合は、原則として、再度、受電側接続検討申込みおよび検討料をいただき、再検討が必要」としています。ただし「原則として」であり、要否確認の手続きで「不要」と判断される余地は十分にあります。
出典:東北電力ネットワーク「系統連系・発電量調整供給・電力売電に関するお申込み」

実務上の判断フレームワーク

確認項目確認方法判断基準
変更後の出力(kW)新メーカーの仕様書元の出力以下なら問題なし
PCSの電気的特性力率、高調波、短絡電流の比較同等以上なら問題なし
蓄電池の容量(kWh)新メーカーの仕様書容量変更自体は系統影響小
接続電圧・接続点変更の有無変更しないなら影響なし
設備の物理的サイズ配置図の再検討敷地内に収まれば問題なし
JC-STAR★1取得状況IPA適合ラベル交付リスト2027年度以降は未取得PCSで連系支障の可能性

設備選定の新たな条件 — JC-STARサイバーセキュリティ要件

設備変更を検討する際、2025年以降は新たにサイバーセキュリティの要件も考慮する必要があります。IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が運営するJC-STAR(セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度)が、PCSをはじめとする設備選定に直接影響を及ぼし始めています。

JC-STAR制度の概要

正式名称:セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度
(JC-STAR: Labeling Scheme based on Japan Cyber-Security Technical Assessment Requirements)
運営機関:IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)、経済産業省の監督下で運用
対象:IP通信機能を持つIoT製品全般
方式:★1は自己適合宣言方式(第三者認証ではない)

適合ラベル申請受付は2025年3月25日に開始。2025年5月21日には11社26申請・477製品に初回ラベルが交付されています。
出典:IPA「セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度(JC-STAR)」

グリッドコードへの要件化方針

第20回グリッドコード検討会(2025年12月16日開催)において、太陽光発電・蓄電池のPCS等にJC-STAR★1取得製品の使用をグリッドコード(系統連系技術要件)に組み込む方針が示されました。2027年度のフェーズ2'で要件化を目標としています。

⚠ 「義務化」ではなく「要件化」— 正確な理解が重要

JC-STAR★1について「義務化」と表現されるケースがありますが、正確には「要件化される方針が示されている」段階です。2026年4月時点では正式な規程改正は未完了であり、検討・審議段階にあります。法律上の義務ではなく、グリッドコードの技術要件として組み込まれることで事実上の必須条件となる見通しです。

50kW未満の低圧連系設備については、流通在庫への配慮から半年間の経過措置を経て2027年10月から適用が予定されています。ただし、この日程もグリッドコード検討会での方針であり、正式確定には規程改正の公表を待つ必要があります。
出典:OCCTO 第20回グリッドコード検討会 資料3 / 資源エネルギー庁 第19回グリッドコード検討会 資料6

★1取得済み製品(2025年10月時点)

メーカー製品名取得時期製品種別
SMA JapanSunny Central UP / Sunny Central Storage UP-XT2025年10月PCS(太陽光用・蓄電池用双方向)
PowerXMega Power 2700A / Mega Power 25002025年10月蓄電池システム(系統用)
Shizen ConnectShizen Box / Shizen Box 22025年5月IoT端末(ゲートウェイ)※PCSではない
※ JC-STARはIP通信機能を持つIoT製品を対象とする制度であり、蓄電池セルや筐体の安全性を評価する制度ではありません。Shizen BoxはIoTゲートウェイであり、PCSとは異なる製品カテゴリーです。
設備変更時のJC-STAR確認ポイント

・変更先のPCSがJC-STAR★1の適合ラベルを取得済みかを確認する
・2027年度以降の要件化を見据え、未取得PCSへの変更は系統連系に支障が生じる可能性がある
・PCSだけでなく、EMS・ルーター等の周辺IoT機器についても、ERABセキュリティガイドラインVer3.0(2025年5月22日改定)において新規導入時のJC-STAR★1取得が求められている
出典:ERAB セキュリティガイドライン Ver3.0(2025年5月22日改定)

開発権の買い手が知っておくべき4つの事実

事実①:接続検討回答書の価値は「系統側の条件確定」にある

接続検討回答書の経済的価値の本質は、接続点・連系電圧・工事負担金が確定していることにあります。事業者側の設備仕様は、この「系統側の枠」の中で自由に最適化できます。

事実②:要否確認は「無料で1ヶ月」

接続検討の要否確認は無料で、回答も原則1ヶ月。仮に「再検討が必要」と判断されても、費用は約20万円、期間は2〜3ヶ月です。既に確保されている系統容量と接続点は維持されたまま、設備仕様の変更が系統に影響するかどうかだけを確認する手続きです。

事実③:「同じ出力・同じ電圧」なら、ほぼ通る

50MWの蓄電池を50MWのまま、66kV連系を66kVのまま、メーカーだけ変える — このパターンで「再検討が必要」と判断されるケースは限定的です。系統に影響を与えるのは出力(kW)と接続条件であり、蓄電池セルのメーカーやPCSのブランドではありません。

事実④:JC-STAR★1の取得状況が設備選定の新たな判断基準に

2027年度のグリッドコード要件化方針を踏まえると、設備変更時には変更先のPCSがJC-STAR★1の適合ラベルを取得済みかどうかも重要な確認事項です。要件化が正式に決定された場合、未取得のPCSでは新規の系統連系が認められない可能性があります。設備変更の検討段階で、メーカーの取得状況を確認しておくことが望まれます。

まとめ:接続検討回答書は「設備の指定書」ではなく「系統アクセスの確保証明」

開発権パッケージの価値は、希少な系統アクセスの確保にあります。蓄電池やPCSのメーカーは、買い手が自社の最適な調達戦略に基づいて選定できます。

変更手続きは制度化されており、コストも期間も限定的です。「設備を変えたら権利が無効になる」という誤解が、参入の障壁を不必要に高めています。

加えて、2027年度以降はJC-STAR★1の要件化方針により、PCS選定時にサイバーセキュリティ適合ラベルの取得状況を確認することが求められる見通しです。設備変更の自由度は維持されつつも、選定基準に新たな軸が加わっている点を認識しておくことが重要です。
出典・参考資料:
・OCCTO「発電設備等系統アクセスの流れ」https://www.occto.or.jp/access/kentou/access_process.html
・OCCTO「系統アクセス手続きで用いる様式集」https://www.occto.or.jp/access/kentou/youshiki.html
・東北電力ネットワーク「系統連系・発電量調整供給・電力売電に関するお申込み」https://nw.tohoku-epco.co.jp/consignment/request/emit/
・東京電力パワーグリッド「高圧・特別高圧工事のお申込み」https://www.tepco.co.jp/pg/consignment/fit/corporate.html
・OCCTO 送配電等業務指針
・IPA「セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度(JC-STAR)」https://www.ipa.go.jp/security/jc-star/index.html
・OCCTO 第20回グリッドコード検討会(2025年12月16日)資料3
・資源エネルギー庁 第19回グリッドコード検討会 資料6
・ERAB セキュリティガイドライン Ver3.0(2025年5月22日改定)