COLUMN 01 — 制度解説
長期脱炭素電源オークション(LDA)とは?
— 20年固定収入の仕組みを徹底解説
蓄電池事業への参入を検討している方に向けて、LDAの基本構造から第3回の制度変更まで、公表資料に基づき解説します。
なぜ国がこの制度を作ったのか
日本の電力システムは、再生可能エネルギーの急速な拡大に伴い、大きな課題を抱えています。太陽光や風力は天候に左右されるため、電力の需給バランスを調整する「蓄電池」が不可欠になりました。
しかし、大型蓄電池は建設に100億円を超える投資が必要です。民間企業がこれだけの投資を行うには、長期的な収入の見通しが不可欠です。
そこで国が2023年度に容量市場の一部として創設したのが「長期脱炭素電源オークション(LDA)」です。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が管理し、一言で言えば「蓄電池を建てて20年間運営してくれたら、国が建設費と固定費を保証する」という制度です。
LDAの仕組み — 「守り」と「攻め」の2階建て収入
LDAで落札すると、収入は2つの層から構成されます。オークション方式はマルチプライス方式(各落札者の応札価格がそのまま約定価格となる)を採用し、メインオークションのシングルプライス方式とは異なります。
① 守りの収入(固定費回収)= LDA固定収入
建設費、人件費、修繕費などの「固定費」を賄う資金。20年間、OCCTOから定額で支払われます。物価変動(コアCPI)に応じた年度補正も適用され、インフレリスクも一定程度ヘッジされます。
② 攻めの収入(市場売電益)= ボーナス利益
卸電力市場(JEPX)・需給調整市場・非化石価値市場等で得られる利益。固定費は①でカバーされるため、②は上乗せ利益の性格を持ちます。
最悪のシナリオ(市場で全く利益が出ない場合)でも、①の固定収入で赤字にはならない構造です。この安定性こそがプロジェクトファイナンスの組成を容易にし、金融機関の融資判断に有利に働く最大のメリットです。
「90%還付ルール」の正体 — 実は3段階構造
LDAには「90%還付ルール」として知られる取り決めがありますが、実際は3段階構造です。
還付率の3段階構造
第1段階(還付率95%): 応札価格に織り込まれた事業報酬額までの他市場収益。事業者の手取りは5%。
第2段階(還付率90%): 事業報酬額を超え、LDA約定単価とメインオークション約定価格の差額までの部分。事業者の手取りは10%。
第3段階(還付率85%): 上記を超える超過利益部分。事業者の手取りは15%。
出典: TMI総合法律事務所解説記事 https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2023/15106.html / OCCTO制度詳細説明資料(2024年9月)
重要なのは、還付の対象は②の市場売電益だけで、①のLDA固定収入は100%手元に残る点です。KPMGの分析ではLDAのIRRは容量支払のみで約3.2%の「債券的リターン」に収束しますが、20年間の安定収入によりDSCR(元利返済前ネットCF÷元利金返済額)が組みやすくなり、SPC(特別目的会社)を通じたTK-GKスキームでの資金調達が可能になります。
対象電源と参加要件
LDAに参加できるのは新設・リプレース・改修のみです。蓄電池・揚水のほか、原子力、水力、太陽光、風力、地熱、バイオマス専焼、水素・アンモニア混焼(改修)が対象で、2023〜2025年度の時限措置としてLNG専焼火力も含まれます。
蓄電池の主な参加要件:
・最低入札容量: 第1回(2023年度応札)は
1万kW(10MW)以上、第2回(2024年度)以降は
3万kW(30MW)以上
・運転継続時間: 第1〜2回は
3時間以上(第2回は3-6h/6h+の2区分)、第3回(2025年度)から
6時間以上
・供給力提供開始期限: 落札から
4年以内
・接続検討回答書の取得が応札の前提条件
出典: OCCTO募集要綱(2023年度・2024年度)/ OCCTO制度詳細説明資料(2025年度)P7,P19 / 資源エネルギー庁第93回作業部会資料P21-22
蓄電池の参加要件 — 年度別変遷
| 入札回 | 最低設備容量(送電端) | 運転継続時間 | 蓄電池・揚水 募集上限 |
| 第1回(2023年度) | 1万kW(10MW)以上 | 3時間以上 | 100万kW(区分なし) |
| 第2回(2024年度) | 3万kW(30MW)以上 | 3時間以上(3-6h / 6h+の2区分) | 150万kW(各区分75万kW) |
| 第3回(2025年度) | 3万kW(30MW)以上 | 6時間以上(3-6h区分は廃止) | 80万kW(LiB: 40万kW、非Li+揚水新設+LDES: 40万kW) |
| 第4回(2026年度) | 3万kW(30MW)以上 | 6時間以上 | 80万kW(LiB: 40万kW、非Li: 40万kW。揚水・LDESは別枠で40万kW) |
出典: OCCTO制度詳細説明(2025年度)P7,P19,P22 / 資源エネルギー庁第93回作業部会資料(2024年5月27日)P21-22 / OCCTO 長期脱炭素電源オークション募集要綱(応札年度2026年度・2026年9月2日公表)p.10・p.13
第1回〜第2回の結果 — 蓄電池に資金が殺到
| 項目 | 第1回(2024年4月公表) | 第2回(2025年4月公表) |
| 脱炭素電源 募集量 | 400万kW | 500万kW |
| 蓄電池 応札量 | 4,559MW | 6,956MW(+53%) |
| 蓄電池 落札量 | 1,092MW | 1,370MW・27件(+25%) |
| 蓄電池 落札率 | 約24% | 約20% |
| 競争倍率 | 約4.2倍 | 約5.1倍 |
| 加重平均約定単価(脱炭素全体) | 5.8万円/kW/年 | 6.8万円/kW/年 |
| 約定総額(脱炭素全体) | 2,336億円/年 | 3,464億円/年 |
出典: OCCTO約定結果(2024年4月26日・2025年4月28日公表)/ SOLAR JOURNAL / PVeye
第1回では蓄電池1,092MWに加え揚水577MWが落札し、合計1,669MW。KPMGの分析では落札蓄電池企業の約60%が外資系で、国際投資マネーがこの制度に集中しています。
第2回は運転継続時間別に、3時間以上6時間未満が961MW、6時間以上が409MW。最大落札電源は既設原子力の安全対策投資315.3万kW(3件)でした。
⚠ 落札率20% — 「入札すれば通る」ものではない
第2回は5件に1件しか通らない競争。最大の勝敗分岐点は「接続検討回答の事前取得」と「連系負担金の低さ」。適地確保がLDA落札の前提条件です。
第3回(2025年度応札)の結果 — 2026年5月13日公表
| 項目 | 第1回(2024年4月公表) | 第2回(2025年4月公表) | 第3回(2026年5月公表) |
| 蓄電池 応札量 | 4,559MW | 6,956MW | 2,731MW(LiB 1,525MW・LiB以外 1,206MW) |
| 蓄電池 落札量 | 1,092MW・30件 | 1,370MW・27件 | 1,251MW・19件(LiB 551MW・10件/LiB以外 700MW・9件) |
| 蓄電池 落札率(落札量÷応札量) | 約24% | 約20% | 約46%(LiB 36%・LiB以外 58%) |
| 蓄電池の募集上限 | 1,000MW(揚水と合算) | 750MW×2区分(揚水と合算) | 400MW×2区分(LiB+揚水リプレース/LiB以外+揚水新設+LDES) |
| 全電源 応札量→落札量 | 13,562MW→9,766MW(72%) | 13,619MW→6,345MW(47%) | 10,856MW→7,299MW(67%)・32件 |
出典: OCCTO 長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度2023・2024・2025年度/2024年4月26日・2025年4月28日・2026年5月13日公表)の本文と別紙「落札電源一覧」
第3回は蓄電池の応札が2,731MWと、第2回の4割に減りました。落札率は約46%で、第1回の約24%・第2回の約20%から大きく上がっています。LiBは応札1,525MWに対して落札551MW(36%)、LiB以外の蓄電池は応札1,206MWに対して落札700MW(58%)でした。
募集上限はLiB+揚水リプレースの区分、LiB以外+揚水新設+LDESの区分とも400MWです。各区分は上限の2倍まで約定できる規定があり、約定量はそれぞれ819MW・886MW(揚水を含む)でした。
蓄電池の落札件数は19件で、第1回の30件・第2回の27件より少なく、3回で最少です。1件あたりの落札量は約66MWで、第1回の約36MW・第2回の約51MWより大きくなっています。
第3回からの制度変更 — LiB枠の激減と6時間要件
第3回LDA(2025年度応札)の主な変更点:
① LiB募集枠の大幅削減: 蓄電池・揚水・LDESの募集上限0.8GW。うちLiB+揚水リプレースが
0.4GW、LiB以外+揚水新設+LDESが
0.4GW。第1・2回の実質1GW枠から大幅縮小。
② 運転継続時間の引き上げ: 3時間以上 →
連続6時間以上。夕方ランプアップへの長時間対応を重視する政策を反映。
③ セル製造国の特定国依存度制限: 特定国からのセル調達を
30%以下に制限(サプライチェーンリスク分散)
④ 新対象電源の追加: CCS付火力・LDES(長期エネルギー貯蔵システム)・アンモニア専焼新設
⑤ 事業報酬率(WACC上限)の差別化: 第1-2回は全電源種一律
5%だったが、第3回からリードタイムに応じて
4%/5%/6%に差別化。蓄電池はリードタイム4年のため
4%に引き下げ。
⑥ 上限価格の閾値引き上げ: 10万円/kW/年 →
20万円/kW/年
出典: 資源エネルギー庁 第102回作業部会資料(2025年4月23日)/ 第104回制度検討作業部会資料(2025年6月23日)/ OCCTO制度詳細説明(2025年度)
第4回(2026年度応札)— 応札は2027年1月、蓄電池は揚水と別の枠に
第4回の募集要綱は、2026年9月2日にOCCTOが公表しました(2026年9月27日時点で確認)。応札の受付は2027年1月19日〜26日です。その前に事業者情報の登録(2026年10月13日〜16日)と電源等情報の登録(10月19日〜23日)があり、ここに間に合わなければ応札できません。約定結果は、応札の受付が終わってから3か月後が目安とされています。
募集上限は、リチウムイオン蓄電池(LiB)が40万kW、LiB以外の蓄電池が40万kWです。揚水とLDESは、合計40万kWの別の枠になりました。第3回はLiBが揚水のリプレースと、LiB以外が揚水の新設・LDESと、同じ枠を分け合っていました。
LiBには新しい順番が入ります。経済安全保障推進法の供給確保計画の認定を受けたメーカーが自社の拠点でつくったセル(OEMは含まない)を使う「認定付き」のLiBが先に落札され、認定の無いLiBは、枠が残ったときにだけ落札の可能性があります。セル製造国ごとに落札容量の30%未満とする制限は、第4回ではLiB以外の蓄電池に掛かります。
参加できる蓄電池は、第3回と同じく送電端3万kW以上で、1日1回以上・連続6時間以上の運転を続けられるものに限られます。3〜4時間型のLiB蓄電池ではLDA参加が困難なため、長時間放電に対応した技術(ナトリウムイオン電池、LDES等)の検討が急務です。
出典: OCCTO 長期脱炭素電源オークション募集要綱(応札年度2026年度・2026年9月2日公表)p.9(募集スケジュール)・p.10(募集量)・p.13(電源等要件)・p.28・p.35(認定付きリチウムイオン蓄電池)
まとめ — LDAは「入口=適地確保」が全て
LDAは20年固定収入でプロジェクトの収益を安定化させる極めて魅力的な制度です。しかし第1・2回は落札率約20%の激戦(第3回は応札が減って約46%)、30MW以上の最低容量要件(第2回以降。第1回は10MW以上)、第3回からの6時間以上の運転継続時間要件、そして接続検討回答書の事前取得というハードルがあります。
系統連系コストが低い適地を確保し、接続検討回答を迅速に取得できる体制 — これがLDA落札への最短ルートです。
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出典・参考資料:
・OCCTO 約定結果(2023年度応札)https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2024/files/240426_longauction_youryouyakujokekka_kouhyou_ousatsu2023.pdf
・OCCTO 約定結果(2024年度応札)https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/oshirase/2025/files/250428_longauction_youryouyakujokekka_kouhyou_ousatsu2024.pdf
・OCCTO 制度詳細説明資料(2025年度)https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/files/202509_youryou_syousaisetsumei_long.pdf
・OCCTO 長期脱炭素電源オークション募集要綱(応札年度2026年度・2026年9月2日公表)https://www.occto.or.jp/assets/260902_boshuyoukou_long_2026.pdf
・資源エネルギー庁 第93回作業部会資料(2024年5月27日)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/093_03_00.pdf
・資源エネルギー庁 第102回作業部会資料(2025年4月23日)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/102_04_00.pdf
・資源エネルギー庁 第103回作業部会資料(2025年5月28日)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_review/pdf/103_03_03.pdf
・資源エネルギー庁 第104回作業部会資料(2025年6月23日)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_review/pdf/104_03_00.pdf
・LDAガイドライン(2025年8月27日改定)https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/choukigl_20250827.pdf
・TMI総合法律事務所 LDA解説 https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2023/15106.html
・KPMG 脱炭素電源オークション分析 https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2024/10/decarbonized-power-auction.html
・SOLAR JOURNAL https://solarjournal.jp/policy/53347/ / PVeye https://www.pveye.jp/eye_sight/view/6279/
・enegaeru.com https://www.enegaeru.com/long-term-decarbonizationpowersourceauction
この記事の監修
中島 晋也(サイエンスエックス株式会社 代表取締役・工学博士)
系統用蓄電池発電所の開発・売買・技術デューデリジェンスを手がける。本コラムは、実案件の組成と評価の実務に基づいて執筆・監修しています。