← ナレッジ一覧に戻る

なぜ今「フルマーチャント」が選択肢に入るのか

Column 01で解説したLDAは、20年間の固定収入を得られる安定的な収益モデルです。しかし、LDAには3つの構造的な制約があります。

LDAの構造的制約

落札率20%:第2回LDAで蓄電池は応札6,956MWに対し落札1,370MW(落札率20%)と激戦
長時間型が優遇される方向:第2回LDAから「3〜6時間未満」と「6時間以上」の2区分に分離。3時間以上あれば応札可能だが、第3回以降は長時間型が制度的に有利になる方向で議論が進行中
収益の約9割を国に還付:市場収益の大部分がLDA還付金として差し引かれ、手元に残るのは約1割
30MW以上:第2回以降の最低入札容量は3万kW(30MW)。2MW級の高圧案件は参加不可
出典:OCCTO 長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2024年度)/ 資源エネルギー庁 制度検討作業部会資料

これらの制約を踏まえると、「LDAに落札できなかった場合」「そもそも30MW未満の案件」「市場収益の100%を自社で取りたい場合」には、フルマーチャント戦略が唯一の選択肢になります。実際、市場では「最初からLDAを狙わない」事業者が増えています。

フルマーチャントの収益構造

フルマーチャント型の収益は、JEPX(卸電力市場)・需給調整市場・容量市場の3市場を組み合わせて構成されます。LDAと異なり、市場収益の100%が自社収益です。

収益源LDA型フルマーチャント型
容量収入LDA容量支払い(20年固定)メインオークション(4年先渡し・単年約定)
JEPXアービトラージ収益の約9割をLDA還付金として差引100%が自社収益
需給調整市場同上(還付対象)100%が自社収益
想定IRR約3〜5%(安定型)8〜12%以上のポテンシャル
リスク低(固定収入)市場価格変動を全て負う
プロジェクトファイナンス組成しやすいCF予測が不確実なため組成困難

50MW級のフルマーチャント収支イメージ

50MW/200MWh 東北エリア 年間収支モデル(概算・上限価格15円ベース)

【収入】
JEPXアービトラージ:8〜15億円(JEPX価格差・充放電サイクル数による)
需給調整市場:3〜8億円(上限価格15円/ΔkW・30分 ベース。一次〜三次②の約定状況による)
容量市場:約7億円(東北エリア約定価格14,812円/kW × 50MW)
収入合計:18〜30億円

【支出】
O&M費・保険料・管理費等:▲3〜5億円
アグリゲーター報酬(収入の10〜15%):▲2〜4億円
託送料金・再エネ賦課金等:▲2〜3億円
年間営業利益:9〜18億円

※ 需給調整市場は2026年3月〜の上限価格15円/ΔkW・30分を前提。今後10円・7.21円への段階的引き下げが実施された場合、下限を下回る可能性あり。

フルマーチャント型の判断ポイント

メリット

市場収益の100%を享受できること。LDAの長時間要件に縛られず、3〜4時間型でも事業成立すること。容量市場のメインオークションに参加可能であること(2028年度向けオークションの落札率96.6%)。IRR 10%超を狙えるポテンシャルがあること。

リスク

20年固定収入がないため、市場価格変動リスクを全て負うこと。需給調整市場の上限価格が引き下げ方向にあること(19.51円→15円、さらに10円・7.21円も議論中)。プロジェクトファイナンスの組成が困難なため、自己資金またはコーポレートファイナンスが中心になること。市場運用の高度なノウハウ(またはアグリゲーターとの契約)が必須であること。

需給調整市場の上限価格引き下げリスク

需給調整市場は蓄電池にとって高収益の源泉ですが、上限価格の段階的引き下げが進行中です。
・2026年3月〜:19.51円/ΔkW・30分 → 15円(実施済み)
・今後の議論:10円、さらには7.21円も検討対象

15円への引き下げは、当初案の7.21円から業界の投資不確実性への懸念を受けて圧縮された経緯があります。制度が1段階動くだけでIRRが別物になるため、収支計画では複数シナリオでの感度分析が不可欠です。
出典:資源エネルギー庁 第110回制度検討作業部会資料(2026年1月23日)

2MW級のフルマーチャント

2MW/8MWh級の高圧案件は、LDAの最低入札容量(30MW)を満たさないため、100%フルマーチャント型になります。規模は小さいですが、初期投資も小さく、補助金(設備費の約1/3)も活用しやすいため、新規参入の1号案件として選ばれるケースが増えています。

2MW/8MWh 年間収支モデル(概算・上限価格15円ベース)

JEPXアービトラージ:3,000〜5,000万円
需給調整市場:1,000〜2,000万円(上限価格15円ベース)
容量市場(東京エリア 14,812円/kW):約2,960万円
収入合計:7,000〜10,000万円
支出合計:▲1,500〜2,500万円
年間営業利益:4,500〜7,500万円

どちらを選ぶべきか

判断基準LDA型が向いているフルマーチャント型が向いている
リスク許容度低リスク・安定収益を重視市場リスクを取れる
資金調達プロジェクトファイナンスで調達したい自己資金・コーポレートファイナンスが可能
市場運用力トレーディング機能を持たない自社 or アグリゲーターで高度な運用可能
案件規模30MW以上(LDA最低入札容量)規模不問(2MW〜50MW超まで)
目標IRR3〜5%で十分8%超を目指す

重要なのは、同じ案件でもLDA型・フルマーチャント型の両方が選択肢になり得ることです。30MW以上の案件では、まずLDAに応札し、落札できなければフルマーチャントに切り替える「二段構え」戦略も有効です。連系コストが低い案件ほど、どちらの戦略でも事業が成立しやすくなります。

LDA vs マーチャント、御社にはどちらが最適か

案件ごとの収支シミュレーションを面談時にご提供します。

お問い合わせ →