COLUMN 02 — 収益構造
蓄電池の3つの収益源
— JEPX・需給調整市場・容量市場のスタッキング戦略
系統用蓄電池の収益は1つの市場では完結しません。3つの市場をどう組み合わせるかが、事業の成否を分けます。
蓄電池の収益は「3つのポケット」から入る
系統用蓄電池の収益は、単一の市場ではなく3つの市場を重ね合わせる「スタッキング」で構成されます。この3市場のバランスをどう設計するかが、IRR(内部収益率)を左右する最大の変数です。
ポケット①: JEPXアービトラージ(卸電力市場) — 安く買って高く売る
ポケット②: 需給調整市場 — 電力の「保険」を売る
ポケット③: 容量市場 — 「存在するだけ」で固定収入
ポケット① JEPXアービトラージ — 価格差が5倍に拡大
卸電力市場(JEPX)は24時間を30分刻み48コマで取引します。蓄電池は安値コマで充電し、高値コマで放電する価格差取引(アービトラージ)で利益を得ます。
2024年のJEPX価格差: 1日の最高値と最安値の差は平均約
20円/kWh
(2020年頃は約4円/kWh → 5倍に拡大)
典型的な価格パターン:
・深夜帯: 10円/kWh未満
・太陽光余剰の昼間: 0.01円/kWh(特に九州エリアで頻出)
・夕方ピーク時: 20円/kWh超
充放電サイクル: 1日1〜2サイクル(経産省MRI試算は1日1〜2ブロック、1ブロック=3時間を前提)
出典: 経産省 定置用蓄電システム普及拡大検討会 第4回資料 / borderless.law 2025年蓄電池投資ガイド
太陽光発電の大量導入により、昼間の市場価格がほぼゼロに下がり、夕方のピーク時に跳ね上がる「ダックカーブ」が日本でも常態化しています。この構造が蓄電池のアービトラージ収益の源泉です。
ポケット② 需給調整市場 — 蓄電池の「主戦場」だが激変リスクあり
需給調整市場は2024年4月に全5商品(一次調整力、二次調整力①②、三次調整力①②)の取引を開始しました。蓄電池にとって最も有利なのは一次調整力と二次調整力①です。
| 商品 | 応動時間 | 継続時間 | 蓄電池約定価格(2024年7-8月) |
| 一次調整力 | 10秒以内 | 5分以上 | 28〜39円/ΔkW·h |
| 二次調整力① | 5分以内 | 30分 | 28〜39円/ΔkW·h |
| 二次調整力② | 5分以内 | 30分 | 低め |
| 三次調整力① | 15分以内 | 30分 | 低め |
| 三次調整力② | 60分以内 | 30分 | 上限なし |
※ 上記は2024年7-8月時点の価格。2026年3月13日以降は上限15円/ΔkW·30分に引き下げ済み。
出典: 経産省MRI 2024年11月11日資料
一次・二次①は応札量不足により不足率が7〜8割と極めて高く、2024年度前半時点ではほぼ任意の価格で約定できる「売り手市場」でした。ただしFY2025以降は改善傾向にあり、上限価格引き下げ(15円)と募集量削減(1σ化)により市場環境は変化しています。蓄電池の約定価格28〜39円/ΔkW·hは、火力の4.1〜8.1円の数倍に達していました。
※ 2026年3月13日以降は上限価格15円/ΔkW·30分が適用され、この水準での約定は不可。
⚠ 重大リスク: 2026年3月からの上限価格引き下げ
2026年3月13日取引分から、一次〜三次①の上限価格が現行
19.51円 → 15円/ΔkW·30分に引き下げられました(2026年3月13日施行)。当初案の7.21円への統一は業界の強い反発で緩和されたものの、収益への影響は大きいです。
さらに一次・二次①の募集量も3σ → 1σ相当に削減され、蓄電池事業の収益見通しに不確実性を投げかけています。
出典: 資源エネルギー庁(2026年1月23日)
ポケット③ 容量市場 — 過去最高を更新し続ける「安定収入」
容量市場(メインオークション)は、実需給の4年前にオークションを実施し、電源が「存在する」ことに対して対価を支払う市場です。蓄電池は1,000kW以上で参加可能で、落札率は96%超とほぼ全量落札できます。
第5回メインオークション(2028年度実需給分):
総平均単価:
11,134円/kW(過去最高・経過措置控除後)
約定総額:
1兆8,506億円(過去最高)
エリア別約定価格:
・北海道・東北・東京: 14,812円/kW(上限価格)
・九州: 13,177円/kW
・中部: 10,280円/kW
・北陸・関西・中国・四国: 8,785円/kW
出典: OCCTO 2025年1月29日公表
約定価格は第1回14,137円(全国一律・批判を受ける)→ 第2回3,495円に急落(北海道・九州は5,242円) → その後エリア別に分断され、第3回5,226円 → 第4回7,847円 → 第5回11,134円と継続的に上昇。背景にはデータセンター・半導体工場等の電力需要増があります。
ただし蓄電池のメインオークション応札容量は全体の約0.1%(約24万kW)にとどまり、大型蓄電池の多くはLDAに流れている構図です。
2MW案件での3市場スタッキング収支イメージ
経産省MRIは3つのユースケースを分析しています。容量市場+需給調整市場の組み合わせ(パターン2)では、容量市場収入8,348円/kW/年を基盤として、ΔkW価格15円、1ブロック/日、落札率60%の条件下で、建設費7万円/kWh以下であれば概ねIRRがプラスになるとの結果が示されています。
2MW/8MWhの年間収支試算:
| 収益項目 | 年間金額(概算) |
| JEPXアービトラージ | 3,000〜5,000万円 |
| 需給調整市場 | 1,000〜3,000万円 |
| 容量市場(東京エリア 14,812円/kW) | 約2,960万円 |
| 収入合計 | 6,000〜11,000万円 |
| O&M費・保険料等 | ▲1,000〜2,000万円 |
| 託送料金等 | ▲数百万円 |
| 年間営業利益 | 4,000〜8,000万円 |
※ 試算はエリア・市場条件により大きく変動。経産省MRIは「需給調整市場の収益見通しの不確実性は高い」と明記。
アグリゲーターの選択が収益を左右する
3市場への同時参加には高度な運用ノウハウが必要です。多くの事業者はアグリゲーター(市場取引代行事業者)を活用します。
主要アグリゲーター:
・
エナリス(KDDI傘下): 国内第一号のアグリゲーター。需給調整市場の全5商品に参入実績。
・
デジタルグリッド: 2028年7月期までに累積蓄電容量38.3万kWへ拡大計画、100億円を投資。
・
パワーエックス: 1ユニット3MWhの「Mega Power」を製造。東急不動産等との協業案件で採用。
・
自然電力(Shizen Connect): EMS技術を強みにアグリゲーション運用を展開。
出典: 各社プレスリリース / pps-net.org
LDA型(30MW超)との収益構造の違い
30MW超のLDA落札案件は、20年固定収入で年間数億〜十数億円が確定し、市場収益の約1割が追加で手元に残る構造です。IRRは2〜4%の「債券的リターン」ですが、収入の予測可能性が圧倒的に高いため、プロジェクトファイナンスが組みやすい利点があります。
対照的に2MW級のフルマーチャント型はIRR10%超を狙える可能性がある一方、需給調整市場の上限価格引き下げ等の制度変動リスクを直接受けます。
関連コラム
→ LDAとは? — 20年固定収入の仕組みを解説
→ メインオークション vs LDA — 何が違う?
→ 系統連系工事費が10倍違う理由
→ 30MW超 vs 2MW — ビジネスモデル徹底比較
出典・参考資料:
・経産省 定置用蓄電システム普及拡大検討会 第4回資料 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/storage_system/pdf/2024_004_03_01.pdf
・経産省MRI 2024年11月11日資料(需給調整市場分析)
・資源エネルギー庁 上限価格引き下げ決定(2026年1月23日)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_review/pdf/110_04_00.pdf
・OCCTO 第5回メインオークション約定結果(2025年1月29日)https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2024/20250129_youryouyakujokekka_kouhyou.html
・borderless.law 2025年蓄電池投資ガイド https://www.borderless.law/topics/battery_investment_guide_2025/
・pps-net.org https://pps-net.org/column/123147