容量市場メインオークションとは — 将来の供給力を確保する市場
容量市場は、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営する、将来の供給力(kW)をあらかじめ確保するための市場である。電力量(kWh)そのものを売買するJEPXとも、出力を上下させる調整力(ΔkW)を取引する需給調整市場とも異なり、容量市場が買うのは「指定された年度に、必要な発電・放電能力が存在していること」である。電源は実際に動いたかどうかにかかわらず、供給力として存在し待機していることに対して対価を受け取る。
このうち中心となるのがメインオークションで、実需給の4年前に開催される。蓄電池は1,000kW以上で参加でき、オークション方式はシングルプライス(最後の落札者の価格が全員に適用される)、契約は原則1年(単年度)。既存電源も新規電源も同じ土俵で参加する点が、新設のみを対象とするLDA(長期脱炭素電源オークション)との根本的な違いである。
・JEPX(卸電力市場) … 電力量(kWh)を売買。安い時間に充電し高い時間に放電する裁定取引の場。
・需給調整市場(EPRX運営) … 調整力(ΔkW=待機)を取引。出力を上下できる状態で待つことへの対価。
・容量市場(OCCTO運営) … 将来の供給力(kW)を確保。存在することへの固定的な容量収入。
本記事は3つ目の容量市場、なかでもメインオークションに焦点を当てる。3市場をどう重ねるか(スタッキング)の全体像は蓄電池の3つの収益源を参照。
約定価格の推移 — 急落から上昇への転換
メインオークションの総平均単価は、第1回から第5回にかけて大きく振れてきた。第1回で需要曲線の上限に近い高値を付けたあと第2回で約4分の1に急落し、その後は上昇基調に転じている。背景には、データセンターや半導体工場などの新たな電力需要の増加がある。
| 回 | 実需給年度 | 総平均単価 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 第1回 | 2024年度 | 14,137円/kW | 全国一律。需要曲線上限に近接し批判 |
| 第2回 | 2025年度 | 3,495円/kW | 前回の約1/4に急落 |
| 第3回 | 2026年度 | 5,226円/kW | エリア別の市場分断が発生 |
| 第4回 | 2027年度 | 7,847円/kW | 上昇基調に転換 |
| 第5回 | 2028年度 | 11,134円/kW | 過去最高を更新。約定総額 約1兆8,506億円 |
第5回(2028年度実需給分)の総平均単価は11,134円/kW(経過措置控除後)で過去最高を更新し、約定総額は約1兆8,506億円に達した。価格が単年度ごとに大きく動く点は、容量収入を毎年の更新で取りに行くメインオークションの宿命であり、長期固定ではない以上、この変動そのものを織り込んで事業を設計する必要がある。
エリアで7割変わる — 立地が容量収入を決める
第3回以降、容量市場は全国一律ではなくエリア別に分断して約定するようになった。第5回(2028年度実需給分)では、エリア間の単価差が決定的に大きい。同じ蓄電池を建てても、どのエリアに置くかで容量市場からの年間収入が大きく変わる構図である。
| エリア | 約定単価(円/kW) | 上限価格比 |
|---|---|---|
| 北海道・東北・東京 | 14,812円/kW | 上限価格で約定 |
| 九州 | 13,177円/kW | 上限の89% |
| 中部 | 10,280円/kW | 上限の69% |
| 北陸・関西・中国・四国 | 8,785円/kW | 上限の59% |
最高エリア(北海道・東北・東京の14,812円/kW=上限価格に張り付き)と最低エリア(北陸・関西・中国・四国の8,785円/kW)の差は約7割。容量市場収入はkWあたりの固定収入であるため、この単価差はそのまま年間収入の差として効いてくる。蓄電池の収益性を語るとき「立地が全て」と言われるのは、系統連系コストだけでなく、こうした容量市場・需給調整市場のエリア特性が複合的に効くためである。エリア別の需給調整市場データと合わせた立地評価は蓄電池の3つの収益源でも扱っている。
蓄電池の収益にどう効くか — 「存在するだけ」の基盤収入
メインオークションの容量収入は、蓄電池にとって「動かなくても入る」最も安定した収入である。蓄電池の落札率は96%超とほぼ全量落札できるため、参加すれば容量収入はほぼ確実に確保できる。この基盤収入の上に、JEPXのアービトラージと需給調整市場の収益を積み上げていくのが、メインオークション型(フルマーチャント型)の収益設計の基本形である。
・落札率 96%超 — ほぼ全量が落札され、容量収入を取りこぼしにくい
・契約は原則1年 — 毎年の約定価格変動を直接受ける(長期固定ではない)
・他市場での収益に制限なし — JEPX・需給調整市場の収益を全額享受できる
・最低容量 1,000kW — 小規模案件でも参加できる
ただし、メインオークションは「全額もらえる代わりに、毎年の価格変動リスクを自分で負う」制度である点に注意が要る。第1回から第2回への急落のような振れが起きれば、その年度の容量収入は大きく目減りする。価格上昇局面では追い風になるが、容量市場だけに収益を寄せる設計はリスクが高く、JEPX・需給調整市場とのスタッキング前提で初めて成立する。
メインオークションは単年度契約のため、約定価格は毎年動く。第1回14,137円→第2回3,495円のような急落も実際に起きている。容量収入はあくまで基盤であり、収益の安定性をLDA並みに求めるなら制度設計そのものが異なる。
20年固定収入で収益を確定させたい場合はLDA、毎年の価格変動を取りに行きつつ他市場収益を全額享受したい場合はメインオークション、という住み分けになる。
メインオークションには蓄電池がほとんど来ていない
落札率が96%超と高いにもかかわらず、メインオークションに応札している蓄電池の容量はごくわずかである。蓄電池のメインオークション応札容量は全体の約0.1%(約24万kW)にとどまり、大型蓄電池の多くは20年固定収入を狙ってLDAに流れている。
これは「メインオークションが不人気だから」ではなく、新設の大型蓄電池にとっては、プロジェクトファイナンスを組みやすいLDAの20年固定収入のほうが資金調達と相性が良いためである。逆に言えば、既設の蓄電池や3万kW未満でLDAの最低容量に届かない案件にとっては、メインオークションが容量収入を得る現実的な選択肢になる。既設はそもそもLDA(新設のみ)に参加できないため、メインオークション一択である。
・既設蓄電池(LDAは新設のみで参加不可)
・3万kW未満の案件(LDAの最低入札容量に届かない)
・市場取引のノウハウを持ち、価格変動リスクを取れるフルマーチャント型事業者
新設の大規模案件・長期安定収入重視なら、LDA側の検討が中心になる。両制度の7項目比較はメインオークション vs LDAを参照。
メインオークションとLDAの位置づけ
同じ「容量市場」という傘の下にありながら、メインオークションとLDAは設計思想が根本的に異なる。本記事はメインオークション側に焦点を当てているが、参加判断は常に両者の対比のなかで行うことになる。
| 項目 | メインオークション | LDA |
|---|---|---|
| 契約期間 | 原則1年(単年度) | 原則20年 |
| 方式 | シングルプライス | マルチプライス |
| 対象電源 | 既存・新規 全電源 | 新設・リプレース・改修のみ |
| 蓄電池の最低容量 | 1,000kW | 3万kW(第2回以降) |
| 他市場での収益 | 制限なし(全額享受) | 大部分を還付する義務あり |
| 蓄電池の落札率 | 96%超 | 20〜24% |
メインオークションは「既存電源の維持も含めて翌年度の供給力を確保する」市場、LDAは「新設の脱炭素電源に20年の投資回収を保証する」市場である。どちらが得かではなく、既設か新設か・規模・リスク許容度・資金調達の方法によって最適解が変わる。LDA側の20年固定収入と還付ルールの詳細はLDA(長期脱炭素電源オークション)とはで、両制度の参加判断フレームワークはメインオークション vs LDAで詳しく整理している。