EPRXとは — 需給調整市場を運営する取引所
EPRX(イーピーアールエックス)は、正式名称を一般社団法人 電力需給調整力取引所という。2024年4月に需給調整市場の全商品取引が始まったのに合わせて、この市場の運営を担う法人として機能している。日本の電力取引というとJEPX(日本卸電力取引所)が広く知られているが、EPRXはそれとは独立した別の法人・別の市場である。
需給調整市場で取引されるのは、電力量そのものではなく「調整力」である。買い手は一般送配電事業者(東京電力パワーグリッド、東北電力ネットワーク等のTSO)、売り手は発電事業者や蓄電池事業者。売り手は「指定された時間帯に、指定された出力で、いつでも動ける状態で待機する」ことに対して報酬を受け取る。蓄電池はミリ秒単位で出力を変えられるため、この市場で構造的な優位を持つリソースである。
・JEPX(卸電力市場) … 電力量(kWh)を売買。安い時間に充電し高い時間に放電する裁定取引の場。
・EPRX(需給調整市場) … 調整力(ΔkW=待機)を取引。出力を上下できる状態で待つことへの対価。
・容量市場(OCCTO運営) … 将来の供給力(kW)を確保。固定的な容量収入。
蓄電池の事業性は、これら3市場をどう組み合わせる(スタッキングする)かで決まる。収益源の全体像は蓄電池の3つの収益源を参照。
EPRXで取引される5つの商品
需給調整市場には、一次調整力、二次調整力①、二次調整力②、三次調整力①、三次調整力②の5商品がある。違いは「どれだけ速く反応できるか」と「どれだけ長く持続するか」で決まり、応動が速い商品ほど蓄電池の適性が高い。
| 商品 | 応動時間 | 主な役割 | 蓄電池の適性 |
|---|---|---|---|
| 一次調整力 | 10秒以内 | 瞬時の周波数変動(GF) | ◎ 最も得意 |
| 二次調整力① | 5分以内 | 短周期の需給変動(LFC) | ◎ |
| 二次調整力② | 5分以内 | 経済的な出力配分(EDC-H) | ○ |
| 三次調整力① | 15分以内 | 経済的な出力配分(EDC-L) | ○ |
| 三次調整力② | 60分以内 | 再エネ予測誤差への対応 | △ |
一次〜三次①は「複合商品」として1つの入札で同時にエントリーでき、三次②のみ独立した市場で取引される。各商品の制御機能(GF・LFC・EDC・GC)や約定単価、オンライン・オフライン接続の違いは、需給調整市場の5商品で詳しく解説している。
蓄電池がEPRXに参加するまでの流れ
蓄電池が需給調整市場で収益を上げるには、設備を建てるだけでは足りない。EPRXの取引会員になり、送配電事業者と所定の契約を結んだうえで、日々の応札を行う体制が必要になる。
① 取引会員登録と発電販売契約
需給調整市場に応札するには、EPRXの取引会員として登録し、一般送配電事業者との間で発電販売契約を結んでバランシンググループに所属する必要がある。重要なのは、発電販売契約を結ぶ主体と取引会員は同一でなくてもよい点である。これにより「オーナーが取引会員となり、運用はアグリゲーターが担う」「アグリゲーターが取引会員として一括して市場参加する」といった役割分担が可能になる。
② 接続方式の確認(10MWの壁)
設備容量10MW以上(特別高圧接続)の蓄電池は、一次調整力でオンライン(専用線)接続が必須となる(EPRX取引規程)。専用線の敷設には相応のコストがかかるが、全コマでの応札が可能になり収益機会が広がる。10MW未満はオフライン(簡易指令システム)でも参入できるが、オフライン枠の縮小が進む方向にある。
③ アグリゲーターの選定
前日取引化により、事業者は毎日、翌日の48コマそれぞれで「JEPXで売るか、需給調整市場で待機するか」を判断する必要がある。この配分最適化はアグリゲーターの運用アルゴリズムに依存し、同じ設備でも年間収益に差を生む。手数料の取り方(グロス/ネット)も収益に直結するため、アグリゲーター手数料もあわせて確認したい。
① 事業計画・系統連系(蓄電所開発の全工程)
② 取引会員登録/アグリゲーターの選定
③ 発電販売契約・バランシンググループへの所属
④ 商品選択と前日応札(一次〜三次①の複合商品 ほか)
⑤ 約定 → 実需給での待機・応動 → 精算
約定実績と収益の見方
EPRXは取引実績を公表しており、どの商品が・どのエリアで・いくらで約定したかを確認できる。一次調整力の供給不足(低い充足率)が全国的に続いており、参入すれば高い確率で約定できる市場環境が当面続いている。エリア別・商品別の最新データは需給調整市場の約定実績データで整理している。
なお2026年3月13日からは前日取引化・30分コマ化と上限価格の引下げが実施された。収益の天井は下がったが、一次・二次①の不足は依然大きく、商品選択と運用次第で収益機会は残っている。