系統用蓄電所の建設費は、いくらか。この問いに一つの数字で答えると、たいてい外れます。公開されている国内平均は6.8万円/kWh。同じ資料の別のページには2〜4万円/kWhという水準も載っています。倍以上の開きが、どちらも国の検討会資料に書かれている。

この開きは誤差ではなく、条件の違いです。本稿は6.8万円/kWhを電池・PCS・その他・工事の4つに分解し、なぜ単価がここまでばらつくのかを、公開資料でたどれる範囲だけで整理します。規模ごとの事業モデルそのものの違いは30MW超 vs 2MW — 規模で全く異なる蓄電池ビジネスモデルで扱っています。

本稿で使う3つの数字

6.8万円/kWh|補助事業案件の2024年度平均CAPEX(システム5.4万円+工事1.4万円、いずれも税等除く)
2〜4万円/kWh|補助金事業以外で海外製蓄電システムを採用する案件のコスト水準
5万円/kWh|収益を契約で固定しない場合に、黒字化の条件として示されている建設費の水準

出典:経済産業省 定置用蓄電システム普及拡大検討会 第5回 資料3(2025年1月30日)p.25・p.29/同 第3回 資料3(2024年8月29日)p.11/三菱総合研究所が経済産業省の検討会に提出した感度分析

01 — 建設費は「1kWhあたりいくら」で見る

蓄電所の話は出力(MW)から入るので、建設費もつい「1MWあたりいくら」で聞きたくなります。ところが、この見方をすると比較が壊れます。費用の大半を占める電池セルの値段は、出力(kW)ではなく容量(kWh)で決まるからです。同じ2MWでも、4MWhと8MWhでは電池の量が倍違う。国の資料が価格をすべてkWh建てで示しているのも、そこに理由があります。

表1|同じ「2MW」でも、kW建てにすると単価は3倍動く(例示)
仕様(例示)容量6.8万円/kWhでの総額kW建ての単価
2MW / 4MWh4,000kWh2億7,200万円13.6万円/kW
2MW / 8MWh8,000kWh5億4,400万円27.2万円/kW
2MW / 12MWh12,000kWh8億1,600万円40.8万円/kW

※ 単価6.8万円/kWhを機械的に当てた計算例であり、実勢価格を示すものではありません。

出力は3行とも同じ2MWです。それでもkW建ての単価は13.6万円から40.8万円まで動く。kW建ての数字だけで「あの案件より高い/安い」と判断すると、実際には長時間型を短時間型と比べているだけ、ということが起こります。

逆向きの作用もあります。PCS(パワーコンディショナ)は出力(kW)で決まる機器で、電池を増やしても台数はそのままです。それを国の資料はkWhあたりに割り戻しているので、長時間型ほどkWhあたりのPCS費は薄まる。kWh建ての単価が案件ごとに動く要因の一つが、ここにあります。

実務での扱い|複数の見積を並べるときは、まず全部をkWh建てに揃える。そのうえで、次に見る4区分(電池/PCS/その他/工事)に割ってもらう。この2段階を踏まないと、単価の比較は成立しません。

02 — 6.8万円/kWhの中身を、4つに割る

経済産業省 定置用蓄電システム普及拡大検討会 第5回 資料3(2025年1月30日)p.25・p.29は、補助事業案件の2024年度平均を次のように整理しています。

表2|CAPEX 6.8万円/kWhの内訳と、2MW/8MWh級(8,000kWh)に当てたときの金額
区分単価8,000kWhでの金額中身
電池部分4.1万円/kWh32,800万円セル・モジュール・ラック・BMS。容量に比例して増える最大の塊
PCS0.6万円/kWh4,800万円直流と交流を変換する機器。本来は出力(kW)で決まる
その他0.7万円/kWh5,600万円受変電設備、監視・制御、消防・空調まわりなど
システム価格 小計5.4万円/kWh43,200万円上の3つの合計。機器としての値段
工事費1.4万円/kWh11,200万円基礎・造成・電気工事・据付。現地条件で動きやすい
合計CAPEX6.8万円/kWh54,400万円
(5億4,400万円)
土地代と工事費負担金は含まない
出典:経済産業省 定置用蓄電システム普及拡大検討会 第5回 資料3(2025年1月30日)p.25・p.29。単価はいずれも補助事業案件・2024年度平均・税等除く。金額欄は当社が8,000kWhを乗じた計算値。

この表から読めることは3つあります。第一に、電池部分だけで合計の約6割(4.1÷6.8)を占め、機器代(システム価格5.4万円)に対しては約4分の3です。つまり建設費の議論は、実質的に電池セルの調達価格の議論に近い。

第二に、工事費1.4万円/kWhは合計の約2割で、ここは機器と違って現地の地盤・造成・搬入路の条件で動きます。同じ機器を選んでも、土地が変われば動く部分です。第三に、この6.8万円/kWhには土地代も、系統連系の工事費負担金も入っていません。誤読が起きやすいので、後段の07で改めて整理します。

03 — なぜ2〜4万円/kWhという数字も出回るのか

同じ検討会の第3回 資料3(2024年8月29日)p.11には、補助金事業以外で海外製蓄電システムを採用する案件では2〜4万円/kWhのコスト水準もみられる、と書かれています。6.8万円/kWhと2〜4万円/kWhが、同じ主体の資料に並んで存在している。

この差を分けているのは、大きく2つです。

実勢には幅がある。当社のQ&Aで触れているとおり、同じ2MW/8MWh級でも建設費は5〜8億円の幅を持ちます。同じ容量でも値札が1.6倍違うことがある、というのが現場の姿です。単価だけを比べても答えは出ません。何が入っている単価なのかを揃えるところからです。

04 — 規模が変わると、単価そのものが変わる

第5回資料は、50MWh超の大規模案件についてはシステム価格が4.9万円/kWhになるとしています。5.4万円/kWhとの差は0.5万円/kWh。これがスケールメリットです。工事費1.4万円/kWhを足すと、大規模案件の合計は6.3万円/kWhになります。

表3|前提別・規模別の建設費総額(当社が単価に容量を乗じた計算値)
前提2MW / 8MWh級
(8,000kWh)
50MW / 200MWh級
(200,000kWh)
補助事業の2024年度平均6.8万円/kWh × 8,000kWh
約5億4,400万円
6.3万円/kWh × 200,000kWh
約126億円
(50MWh超はシステム4.9万円+工事1.4万円)
海外製・補助金不使用
システム2〜4万円+工事1.4万円
=3.4〜5.4万円/kWh
3.4〜5.4万円/kWh × 8,000kWh
約2億7,200万円〜4億3,200万円
3.4〜5.4万円/kWh × 200,000kWh
約68億〜108億円
SII補助金1/3充当後の実効単価
6.8万円 ×(1−1/3) ≒ 4.53万円/kWh
4.53万円/kWh × 8,000kWh
約3億6,240万円
補助率・上限額が規模で異なるため、同じ計算は当てはめない
黒字化条件として示された
5万円/kWh
5.0万円/kWh × 8,000kWh
4億円
5.0万円/kWh × 200,000kWh
100億円
単価の出典は上記の経済産業省 検討会資料および三菱総合研究所の感度分析。総額は当社が単価×容量で算出した計算値であり、公表された案件価格ではありません。土地代・工事費負担金は含みません。

スケールメリットの効き方を金額で見ておきます。50MW/200MWh級に小規模と同じ6.8万円/kWhを当てると136億円ですが、6.3万円/kWhでは126億円。単価の0.5万円/kWhは、20万kWhを掛けた瞬間に10億円になります。

逆に、2MW/8MWh級に4.9万円/kWhを当ててはいけません。この単価は50MWh超に適用されるもので、8MWhは50MWhに遠く届かないからです。規模ごとの収益構造・資金調達の違いは30MW超 vs 2MWで整理しています。

05 — 補助金を使うと、実効単価はどこまで下がるか

補助対象経費6.8万円/kWhにSII補助金を1/3充当すると、実効単価は約4.53万円/kWhになります(税等除く)。2MW/8MWh級なら約3億6,240万円です。

建設費の総額に1/3を掛けないでください。補助の対象になるのは実施設計費・設備費・工事費のうち対象と認められる範囲だけで、総額全部ではありません。土地代や工事費負担金の扱いも別です。したがって「総額×1/3が戻る」という計算は、ほぼ確実に過大評価になります。

そして補助金は、単価を下げる代わりに縛りを増やします。処分制限期間、効果報告、書類保管、機器の要件、申請内容の変更制約、工期の制約。これらは表に出ない費用として効いてきます。補助金のコラムで書いたとおり、これは「もらい方」ではなく「使うかどうかを判断する」論点です。4.53万円/kWhという数字は、その判断の入口にすぎません。

06 — 建設費が事業性に効いてくる分岐点

建設費がどこまで下がれば事業として成立するのか。三菱総合研究所が経済産業省の検討会に提出した感度分析が、一つの目安を与えています。収益を契約で固定しない場合、容量市場の収入を入れてもベースケースのIRRはマイナス1.5%でした。前提となる建設費は6万円/kWhです。そして黒字化の条件として示されたのは、建設費を5万円/kWh以下に下げるか、卸電力の値差が上振れることでした。

この分析が示しているのは「建設費が事業性を決める主要変数の一つである」という構造であって、個別案件の成否ではありません。同じ前提でも、収益を長期契約で固定するかどうかで話は変わります。

1.8万円/kWhの重み。補助事業平均の6.8万円/kWhと、黒字化条件の5万円/kWhの差は1.8万円/kWhです。2MW/8MWh級(8,000kWh)なら1億4,400万円、50MW/200MWh級(200,000kWh)なら36億円。単価表の小数点以下1桁が、そのまま億円単位の差になります。

収益側をどう置くかは建設費とは別の話で、20年の収支としてどう組み立てるかは蓄電池事業の20年キャッシュフローを参照してください。本稿は費用側だけを扱っています。

07 — 建設費に「含まれていない」もの

6.8万円/kWhは設備と据付工事の数字です。見積書の合計額と、事業に必要な総額は別物です。

表4|CAPEX単価の外側にある費用
項目性格公開されている水準
系統連系の工事費負担金一般送配電事業者へ支払う接続工事の費用。建設費とは別枠で、立地によって桁が変わる案件ごとに接続検討回答書で確定。標準単価という概念がない(系統連系のコラム
土地の取得・造成取得か賃借かで資本支出の形が変わる上記の単価には含まれない
維持管理(O&M)運用期間中、毎年出ていく費用実勢の公開データが無い。参照できるのは、建設費の年1〜2%(当社の概念モデル)、米国NRELの建設費の約2.5%、国のオークションの上限価格算定に置かれたモデルの人件費単価1kWあたり年5,000円の3つだけ(O&Mのコラム
運用代行の報酬市場で売買してもらうための費用市場利益の5〜15%(日本での推定。定義は各社で不統一)
保険・税・管理費保有している限り発生する本稿の範囲外

とくにO&Mは、数字の性格を誤解しないでください。上の3つは前提の違う参照点が近い桁に並んでいるだけで、日本の実勢を測った公開統計ではありません。この分野には、公的に確立した維持管理費の標準単価がまだありません。

08 — 見積を受け取ったときに確認すること

ここまでの内容を、実務の確認手順に落とします。

表5|建設費の見積で、最初に潰しておく8点
#確認することなぜ効いてくるか
1単価がkWh建てかkW建てのままでは、長時間型と短時間型を比べてしまう(表1)
2電池/PCS/その他/工事の4区分に割れているか国の資料と同じ土俵に乗る。一式計上のままでは、どこが高いのか分からない
3工事費負担金が入っているか入っていないのが通常。合計額を「これで建つ金額」と読むと立地次第で外れる
4税抜か税込か検討会の公表単価はいずれも税等を除いた金額
5容量の定義定格容量か、DODや初期劣化を織り込んだ使用可能容量か。分母が違えば単価も違う
6保証の範囲と年数安い単価が短い保証と抱き合わせなら、差額は将来の費用に移っただけ
7為替・物価スライド条項海外製で単価が下がる場合、価格が確定しているかで意味が変わる
8見積の有効期限電池価格は動く。期限切れの単価で事業計画を組み続けない
結論として。建設費に唯一の正解値はありません。あるのは、前提を明示した複数の水準です。6.8万円/kWhは補助事業の平均、2〜4万円/kWhは補助金を使わず海外製を採る場合、4.53万円/kWhは1/3補助を当てた実効値、5万円/kWhは黒字化条件として示された線。どれを当てるべきかは、補助金を使うか、機器をどこから調達するか、容量をいくつにするかという設計の選択で決まります。見積を評価する前に、前提を揃える。順番はここからです。

ScienceXは売主でも買主でもない立場で、蓄電所の技術デューデリジェンスを行っています。見積の内訳や前提の妥当性を確認したい場合はお問い合わせください。なお本稿は公開資料の整理であり、特定の投資判断を推奨するものではありません。

出典