本稿はCOLUMN 45(本編)の条文編です。読者として想定しているのは、税理士・公認会計士(事前確認書を書く人)、金融機関の審査、そして「対象になる根拠を条文で示せ」と言われた申請担当です。結論を先に3行で置き、根拠は表と原文引用(折りたたみ)で示します。判定の凡例は、○=一次ソースで条文確認済み/△=二次ソース経由・一次未達/×=否定/❓=一次で確認不能(照会先を明記)です。

まず結論。①本税制に業種の限定(指定事業)は存在せず、電気供給業・蓄電事業を除外する規定は措置法・施行令・施行規則・産業競争力強化法・省令・告示のどの階層にもない(○)。②法人税の根拠は租税特別措置法第42条の12の7、確認の根拠は産業競争力強化法第2条第20項、手続は経済産業省関係産業競争力強化法施行規則第6条〜第6条の7(○)。③これまで全量売電の蓄電所が中小企業経営強化税制を使えなかった条文上の理由は、措置法施行令27条の6第7項の指定事業に「電気業」がないこと(○)。本税制はその壁を持たない時限措置──確認期限は令和11年3月31日。

編集メモ:条文・通達は国税庁・財務省・経済産業省・衆議院(法律案・成立法律)・総務省の公表物で2026年8月30日〜31日に確認し、公開前に第三者による一次ソース検証(71項目)を経て指摘箇所を原典で再照合しています。告示の逐語など一次に到達できていない箇所は△・❓と明示し、推定の条文番号は書いていません(唯一、所得税側の逐条番号のみ「ほぼ確実な推定」として△で示します)。本稿はリファレンスであり税務助言ではありません。

01条文の在り処 ── どの法令の、どこに書いてあるか

制度の法令構造(2026-08-31時点)
階層法令・資料置かれている内容判定
法人税租税特別措置法 第42条の12の7(令和8年法律第12号で創設)即時償却/税額控除7%(建物・建物附属設備・構築物4%)、上限=調整前法人税額の20%、貸付用除外、大企業の不適用措置(⑧)、繰越の要件(③④)
所得税「特定生産性向上設備等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除」(財務省解説の目次で創設確認)。逐条は第10条の5の7とみられる個人(青色)にも同様の措置○/条番号は△
政省令(税)租税特別措置法施行令・同施行規則の一部改正(改正令の番号は政令第98号・財務省令第21号とみられる=官報照合中△)。単価下限の根拠=措令27条の12の7②は国税庁パンフで確認機械装置160万円/工具・器具備品120万円(40万円以上かつ年合計120万円含む)/建物1,000万円/建物附属設備・構築物120万円(建附60万円以上かつ年合計120万円含む)/ソフトウェア70万円○/改正令番号は△
定義・確認産業競争力強化法 第2条第20項(改正法:2026-06-05公布・07-31施行。法律番号は令和8年法律第29号とみられる)「特定生産性向上設備等」=生産性向上設備等のうち省令基準に適合することにつき経済産業大臣の確認を受けたもの○/法番号は△
手続(経産)経済産業省関係産業競争力強化法施行規則 第6条(申請=様式第一)・6条の2(確認書=様式第二/不実施=第三)・6条の3(変更=第四〜第六)・6条の5(取消し=第七)・6条の7(適合証明=第八・第九)確認申請から適合証明までの様式と手続
確認基準経済産業省告示(投資利益率の算式・除外類型・対象設備要件の正文)15%基準・35億/5億円・意思決定日・除外3類型ほか△(逐語未達)❓
原文で確認する(クリックで展開)

国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」D:「即時償却…又はその取得価額の7%(建物、建物附属設備及び構築物は4%)の税額控除(調整前法人税額の20%が上限)…のいずれかの適用ができる制度が創設されました(措法42の12の7①②)」。

産業競争力強化法(改正法案テキスト)第2条第20項:「…生産性向上設備等のうち、事業の将来における高い生産性の確保に特に資するものとして経済産業省令で定める基準に適合することについて経済産業大臣の確認を受けたものをいう」。METI公表の様式第七の名称「産業競争力強化法第2条第20項の確認取消し通知書」も同項が確認の根拠であることを裏づけます。

税制側の改正法(所得税法等の一部を改正する法律)は、令和8年3月31日に成立・同日公布(令和8年法律第12号)。官報および国税庁パンフレットの条文表記で確認できます。

補足:改正前の42条の12の7は事業適応設備(DX・カーボンニュートラル関連)の条で、令和8年改正で条の再編が行われています。このため国税庁サイトの通達ページには、ファイル名と現行条番号がずれている箇所があります(例:42の12の6関係の通達がファイル名「01_42_12_7.htm」のページに掲載)。通達を引くときはURLではなくページ内の条文名で確認してください。

02なぜ蓄電所が対象になり得るか ── 「除外規定がない」ことの悉皆確認

「対象だ」と言うために本当に必要なのは、対象と書いた条文ではなく、除外する条文がどこにもないことの確認です。次の各階層を確認し、電気供給業・蓄電事業を除外する規定は見当たりませんでした。

業種除外の不存在 ── 確認した階層と結果
確認した法令・資料結果判定
措置法42条の12の7(法人税)事業の限定なし。国税庁パンフ「適用対象となる事業は特に限定されていませんが、貸付けの用に供した場合は対象外となります」
財務省・税制改正大綱 三2(1)「国内にあるその法人の事業の用(貸付けの用を除く。)」とのみ規定。業種の記載なし
確認基準(施行規則・告示)除外は試験研究用・貸付用・風俗営業用の3類型のみ△(告示逐語は❓)
産競法2条20項・「生産性向上設備等」の定義業種の限定なし。「商品の生産若しくは販売…の用に供する施設、設備…」という母概念は、電気という商品の販売の用に供する蓄電設備を包摂し得る
経済産業省「令和8年度税制改正のポイント」「原則全ての業種を対象に、投資利益率15%以上かつ投資下限額35億円(中小企業者等は5億円)以上の投資計画…」

残る論点は「生産等設備」該当性です。大綱注1は「その法人の事業の用に直接供される減価償却資産で構成されているもの」と定義し、事務用器具備品・本店・寄宿舎・福利厚生施設等を除外類型に挙げます(○)。売電用の蓄電設備はこの除外類型に当たらず、形式的には該当します。類似制度の通達(措置法通達42の12の4-2)も生産等設備を「生産活動等の用に直接供される設備」と解し、一部が直接供されていれば全体が生産等設備になるとします(○・類似制度)。ただし、売電専業の蓄電設備を名指しした課税庁の解釈は見つかっていません──該当し得る(△)にとどめ、金額が大きい案件では国税局への事前照会(文書回答手続)を推奨します❓。

03これまで使えなかった理由 ── 経営強化税制の「指定事業」の条文

対比を条文で固定します。中小企業経営強化税制(措置法42条の12の4)は、対象を「指定事業の用に供した場合」に限定します。指定事業の範囲は措置法42条の6第1項が引く政令に接続し、その措置法施行令27条の6第7項は「農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業その他財務省令で定める事業」と列挙します──「電気業」がありません。中小企業庁の手引(令和8年度税制改正対応版)も「電気業…は対象になりません」と明記しています(○)。事業がどの業種かは「おおむね日本標準産業分類を基準として判定」(措置法通達42の6-5、○)。総務省の日本標準産業分類(第14回改定・令和6年4月施行)では、放電により電気を供給する蓄電所は大分類F「電気・ガス・熱供給・水道業」の電気業側に格付けられます(大分類は○、細分類の当てはめは△)。全量売電の太陽光が対象外とされてきたのと同じ条文構造であり、蓄電所は「太陽光の類推」ではなく、この施行令27条の6第7項そのものによって外れていた──ここが本税制で変わった点です。

04要件を条文で ── 確認基準と適用要件の対照表

要件×根拠×判定(原文の逐語は各出典を参照)
要件内容根拠判定
投資規模計画記載の設備の取得価額合計 35億円以上(中小企業者・農業協同組合等は5億円以上)大綱注3①・METIポイント資料
投資利益率年平均15%以上の見込み。算式=「(営業利益+減価償却費)の増加額(取得翌年度以降の各年度平均)÷設備投資額」METIポイント(15%)○/算式逐語はEY経由○/算式は△
意思決定取締役会その他これに準ずる機関の決議・決定が令和7年12月26日以後。12月25日以前決定計画の「変更」は大臣が定める基準に該当することの説明が必要大綱注3④・添付書類⑧○/変更基準の中身は❓
対象設備生産等設備を構成する機械装置・工具・器具備品・建物・建物附属設備・構築物・ソフトウェア(単価下限は01の表)。計画の目的達成に必要不可欠。建物のみの計画は不可措法42の12の7①・措令27条の12の7②/必要不可欠性はEY経由○/△
除外中古・貸付用・試験研究用・風俗営業用貸付は措法①で○。3類型は告示(△)○/△
手続・期限令和11年3月31日までに経産大臣の確認(確認書ベース)。確認日から5年以内に取得・国内事業供用。適用は供用年度措法42の12の7①・国税庁パンフ
単価下限の判定単位「1台又は1基」は通常取引単位で判定。本体と一体で使う附属機器(自動調整装置・原動機等)は含めて判定できる類似通達(措通42の12の4-4)○(類似)

05措置の中身 ── 即時償却・7%控除・「繰越3年」の正体

措置は選択制です。即時償却=普通償却限度額との合計でその取得価額までの特別償却(=初年度に全額)。税額控除=取得価額の7%、ただし建物・建物附属設備・構築物は4%で、控除は当期の調整前法人税額の20%が上限(いずれも措法42の12の7①②、○)。設備ごとにどちらを使うかを選べます(METIパンフ、○)。

控除しきれない分の3年繰越には条件があります。繰越が使えるのは、産業競争力強化法の「認定国際経済事情激変事業適応計画」──予見し難い国際経済事情の急激な変化に対応するための計画──の認定を受け、その計画に本設備の導入の記載があり、確実な実施につき経済産業大臣の確認を受けた法人だけです(措法42の12の7③④、○)。通常の蓄電所事業者がこの認定を取るのは現実的でなく、繰越は「ないもの」として設計するのが安全です。控除枠が立たないなら、供用時期を動かすか、即時償却を選ぶ──その損得は実務編・論点09・11で扱います。

06併用と排他 ── 3つの税制ロック、地方税、圧縮記帳、大企業の条件

排他。投資計画の期間中は、①地域未来投資促進税制(措法42の11の2①②)、②中小企業経営強化税制(措法42の12の4①②。ただし同③の繰越税額控除は除く)、③カーボンニュートラル投資促進税制(措法42の12の6①②)を適用できません(国税庁パンフ、○)。同じ期間に別案件でこれらを使う予定があるなら、制度の割り当てを先に設計する必要があります。

地方税。大綱(地方税)(1)は「特別償却制度を法人住民税及び法人事業税に、税額控除制度を中小企業者等に係る法人住民税に適用する」と定めます(○。地方税法本体の条文はe-Gov・官報で最終確認❓)。即時償却は事業税所得割まで効き、税額控除の地方税側の効きは限定的──選択の損得に直結します。

圧縮記帳。国庫補助金等の圧縮記帳をした資産は、圧縮後の金額が税務上の取得価額となり(法人税法施行令54条3項)、特別償却・税額控除の計算基礎も圧縮後です(通達の一般則。本税制対応の通達最終稿は△)。投資下限5億円/35億円の判定が圧縮前か後かは、どの一次資料にも明示がありません❓──補助金で数億円が動く蓄電所では判定を左右し得るため、計画確定前の照会必須です(実務編・論点07)。

大企業の追加条件。中小企業者(適用除外事業者を除く)・農協等以外の法人は、当期所得が前期を超える一定の事業年度において、(1)継続雇用者給与等支給額の増加率1%以上(資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上、または従業員2,000人超は2%以上)、(2)国内設備投資額>当期償却費総額の30%(同40%)──のいずれも満たさない場合、本制度(繰越を除く)を適用できません(措法42の12の7⑧、○)。大手IPP・商社系のSPC親会社は、賃上げと設備投資の全社数値がここに絡みます。

07仮説の判定と、❓の一覧

調査仮説の判定
仮説判定根拠の要点
H1 指定事業要件はなく、蓄電事業は業種面で排除されない確認○02の悉皆確認。国税庁パンフ・大綱・産競法定義のいずれにも業種限定なし
H2 売電専業の蓄電設備は「生産等設備」に該当し得る確認寄り△大綱注1の定義と除外類型、産競法の「販売の用に供する設備」母概念。名指しの課税庁見解は未確認❓
H3 経営強化税制では指定事業要件で対象外/本税制がその壁を持たない時限措置おおむね○施行令27条の6第7項に電気業なし。確認期限=令和11年3月31日。「初の制度か」は過去制度の網羅未検証
H4 繰越3年は通常の蓄電所事業者には実質使えない確認○認定国際経済事情激変事業適応計画+大臣確認が前提(措法42の12の7③④)
❓一覧(条文編の未確定項目と確認手段)
項目確認手段
所得税側の逐条番号(10条の5の7か)財務省解説の逐条頁/e-Gov施行日版の措置法
産競法改正法の法律番号(令和8年法律第29号か)官報(2026-06-05公布分)
告示の逐語(算式・除外3類型・必要不可欠性・旧計画変更基準)官報掲載の経済産業省告示/サポートセンター 0570-093-930
蓄電所の産業分類の細分類格付け総務省 日本標準産業分類の項目説明
売電用蓄電設備の「生産等設備」該当性の課税庁見解国税局への事前照会(文書回答手続)
地方税法本体の根拠条文e-Gov地方税法・総務省通知
圧縮記帳関係の通達最終稿(42の5〜48(共)-3の2)国税庁 措置法関係通達の公表版

出典(確認日 2026-08-30〜31)

執筆
中島 晋也(工学博士)/ サイエンスエックス株式会社 代表取締役
条文の読み違い・一次ソースの追加情報は s@scix.co.jp へお寄せください。確認のうえ本稿を更新します。