← ナレッジ一覧に戻る

需給調整市場は2026年3月14日受渡分(3月13日取引分)から前日取引と30分コマに移り、一次・二次①の募集量は「3σ相当」から「1σ相当」に(複合商品はもともと1σ相当)、一次・二次①・複合の上限価格は19.51円から15円/ΔkW・30分に変わりました。9月1日実需給分からは上限が10円です。その後、「3σが1σになったのだから募集量は3分の1」という説明をよく目にします。EPRXが公表している数字で割り算すると、そうはなっていません。

このページは需要側だけを扱います。募集量がどう決まり、何がいくら減り、何が減らなかったか、これから何が動かすか。蓄電池がいつ・どこに来るかは47-3、価格がどこで止まるかは47-4に分けました。数式は使いません。図で追える順に並べています。

1. 「1σ」は、どこまで備えるかの幅

需給調整力は、電力の需要と供給のぶれを埋めるために送配電事業者が買っておく「余力」です。ぶれは毎日起きますが、大きさは日によって違います。小さいぶれはよく起き、大きいぶれはまれにしか起きない。この「よく起きる・まれに起きる」の分布を表すのが図1の山で、山の幅の単位がσ(シグマ)です。

-3σ -2σ -1σ 0 需要のぶれの大きさ(σ=標準偏差) 平均 この幅を「どこまで備えるか」が 3σ→1σの変更 図1 「1σ相当」と「3σ相当」の違い(正規分布の場合) 3σまで備える:平均より上のぶれの99.9%を覆う 1σまで備える:84%を覆う

3σまで備えるとは、平均より上に振れるぶれの99.9%を覆う量を買っておくこと。1σまで備えるとは、84%を覆う量で止めること。残りの16%は市場の外の手段で手当てします。「3σ→1σ」は、この備えの幅を狭めた、という意味です。

ここで大事なのは、幅を3分の1にしても、買う量が3分の1にならないことです。理由は次の図にあります。

2. 買う量は3層でできている

2025年度 必要量 2026年度 必要量 2026年度 募集量 σを下げても ここは減らない 必要量から 市場外の分を引く 図2 募集量ができるまでの3層(概念図:高さは例) 異常時分(最大の発電所1台が止まる備え) 平常時分(需要のぶれに備える幅) 市場の募集量 市場外で確保(揚水随契・余力活用)

一次調整力の必要量は、二つの部分の足し算です(制度検討作業部会 第110回 資料4。二次①も同じ考え方で、事故時の分が別に立ちます)。

たとえるなら、平常時分は傘、異常時分はスペアタイヤです。天気予報の精度を変えても、スペアタイヤの数は変わりません。

その必要量から、市場の外で確保する分を差し引いたものが、市場の募集量です。市場の外とは、揚水発電を送配電事業者が直接契約する「随意契約」と、容量市場の落札電源との「余力活用契約」の二つ。2025年度は「3σ相当量から市場外調整力を控除した量」が募集され、控除の期限は2026年3月とされていました(第109回 資料6)。

つまり「必要量」と「募集量」は別の数字です。次の2節で、両方を実際に割ってみます。

3. 必要量は0.55——3分の1にはならない

EPRXが公表する調達必要量表(年度当初発効)を4〜9月で平均し、2026年度を2025年度で割りました。全国では一次0.55、二次①0.56、複合0.78、二次②0.90、三次①0.77です。1σ化の対象である一次と二次①でも、半分より少し下で止まります。スペアタイヤ(異常時分)が残るからです。

管区で見ると、北海道・東北・東京は0.60〜0.70、中部以西は0.44〜0.50。いちばん大きな発電所の大きさが系統の規模に対して大きい東の3管区ほど、スペアタイヤの比率が高く、幅を狭めても減りが小さい——当社はそう読んでいます(管区ごとの内訳は公表されていないので、これは読みであって実測ではありません)。3分の1になった商品×管区は一つもなく、最小は四国の二次①0.44です(管区別の表は末尾の参考表1)。

4. 募集量は0.62、複合は0.97

市場が実際に募集した量は、必要量よりさらに減っていません。約定データの募集量(TSO別)を、2025年度・2026年度とも4〜8月の同じ窓で平均したのが図3です。

一次 オフライン 一次 オンライン 一次 合計 二次① 複合 三次① 二次② 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 2026年度 ÷ 2025年度 0.55 0.56 0.78 0.77 0.90 0.45 0.71 0.62 0.71 0.97 0.96 1.15 前年並み 「3分の1」の線 図3 商品別:「3分の1」の線を割った商品はない(全国) 必要量の比(3σ→1σの計算上の減り) 募集量の比(市場に実際に出た量) 蓄電池の席(一次オフライン枠)

表1 募集量の比 2026年度/2025年度(4〜8月平均、全国)

商品2025年度 MW2026年度 MW
一次オンライン2,1051,4970.71
一次オフライン1,0994980.45
一次 合計3,2031,9950.62
二次①1,5971,1410.71
複合(一次〜三次①)3,8303,7000.97
三次①2,9702,8570.96
二次②9691,1101.15
三次②7205530.77

出典:EPRX 取引実績(エリア別約定データ)から当社計算。2025年度は週間商品(3時間ブロック)、2026年度は30分コマの募集量をそれぞれ平均

読み方は二つです。

蓄電池の席は半分になった。 一次オフライン枠は0.45です。この枠の上限は「平常時分の1σ相当値」と定められたので(第110回 資料4)、σを狭めた効果がほぼそのまま出ました。蓄電池の落札シェアが98〜100%を占めるのがこのオフライン枠で(→47-3)、全国で約500MW/コマ。「蓄電池の席」に限れば、半分以下になったのは事実です。

市場の大きさは変わっていない。 複合商品は0.97、三次①は0.96、二次②は1.15。複合3,700MW、一次オンライン1,500MWという器は、前年並みのまま残っています。「3分の1」説のいちばんの誤りはここです。

管区で見ても同じ形です(図4)。北海道・中部・九州の複合は前年より増え、減った管区でも関西の0.72が下限。複合商品に3分の1はありません(管区別の数字は参考表2)。

← 横にスクロールできます →

北海道 東北 東京 中部 北陸 関西 中国 四国 九州 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 募集量の比(2026年度÷2025年度) 3分の1 図4 管区別:減ったのは蓄電池の席、複合は横ばいか増加 一次オフライン(蓄電池の席) 一次オンライン 複合(一次〜三次①)

5. なぜ複合は増えなかったのか——揚水随契266万kW

制度検討作業部会は2025年12月に「1σ相当に統一すると、2026年度の募集量見込は一次・二次①で13%減、複合商品で50%増」と示していました(第109回 資料6)。実測は一次0.62、複合0.97。見込みとの差を作ったのは、図2の斜線の部分——市場の外で確保した分です。2026年度の必要量表は年度途中で一度も改定されておらず、控除は必要量ではなく募集量の側で行われています。管区ごとに「必要量−募集量」を出すと、東京で約1,400MW、中部で約980MW、関西で約860MW。揚水随契の契約容量を上回るので、余力活用契約など他の市場外調整力も併せて控除されていると読めます。

同じ資料の脚注に「2026年4月以降、状況に応じて必要あらば再度の控除の検討はあり得る」とあります。実際に2026年度は5社が揚水の随意契約を結び、EPRXがそのつど募集量の見直しを告知しました。

表2 2026年度の揚水随意契約

管区契約容量契約期間2025年度実績単価 円/ΔkW・hRC申請単価 円/ΔkW・h
東京約120万kW2026/5/22〜2027/3/310.472.19
中部最大61万kW2026/4/1〜2027/3/310.672.25
関西47万kW2026/4/4〜2027/3/310.673.24
東北最大23万kW2026/4/1〜2027/3/311.343.04
中国約15万kW(新規)2026/6/8〜2027/3/314.4
北海道2026年度は実施せず

出典:電力・ガス取引監視等委員会 制度設計・監視専門会合 第19回(2026年3月30日)資料5-1〜5-4、第20回(2026年5月29日)資料5、各社お知らせ。北海道の見送りは二次情報

東京 中部 関西 東北 中国 北海道 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 MW 1,200 610 470 230 150 実施せず 1,061 326 441 471 314 261 図5 2026年度:市場の外で押さえた量と、市場で募集した量 揚水随意契約の契約容量(市場の外で確保) 複合商品の募集量(市場で募集、4〜8月平均)

合計266万kW。東京は前年60万kWの2倍の120万kWで、東京エリアの複合募集量(1,061MW)を上回る量を市場の外で押さえたことになります(図5)。2025年度の実績単価は0.47〜1.34円/ΔkW・h、30分あたりに直すと0.2〜0.7円で、市場の上限10円とは桁が違います。契約の建て付け(発電機の固定費と機会費用の事後精算)が市場の札と違うので単純な比較はできませんが、送配電事業者にとって安い選択肢であることは確かです。

中国電力ネットワークが2026年6月に新規で随契に踏み切った理由は、「前日取引化後に市場の調達単価がRC申請単価(4.4円/ΔkW・h)と同水準まで上がった」ことでした(第20回 資料5)。市場が高いほど、調達は外へ逃げる。これが複合の募集量を50%増にしなかった理由です。

逆の動きもあります。北海道は2026年度の随契を見送り、市場調達に一本化したと報じられています(一次資料は3月と5月の会合で「市場実績を見て判断」まで)。北海道だけは「必要量−募集量」がほぼゼロで、控除が無いこととも整合します。市場の応札が厚くなれば、随契は減る方向にも動く。募集量は一方通行ではありません。

三次②だけは別の仕組みです。1σ相当の表に、市場外調整力の単価を反映する「募集量削減係数」を掛けて募集量が決まります。この係数が下がった結果、実効募集量は約780MWから約590MWへ、0.76倍になりました(EPRXが公表する1σ表と月次の係数から当社計算)。

6. 上限価格の次と、募集量が戻る条件

2025-11 2026-01 2026-03 2026-05 2026-07 2026-09 2026-11 2027-01 2027-03 2.5 5.0 7.5 10.0 12.5 15.0 17.5 20.0 上限価格(円/ΔkW・30分) 7.21円(条件付き・時期未定) 19.51円 15円(3/14受渡〜) 10円(9/1実需給〜) 1か月 2か月 3か月 6か月 ← 前日取引開始後の判定時期(第110回 資料4) 7/14 第4回WGが10円化を提示 図6 上限価格の階段と、判定の時期

上限価格は19.51円→15円(3月14日受渡〜)→10円(9月1日実需給〜)と下がり、次の段階として7.21円が示されています。発動条件は「市場における競争状況に改善が見られない場合」。判定指標は募集量に対する応札量、応札価格の分布、余力の価格水準で、判定時期は「前日取引開始後1か月、2か月、3か月、6か月など」の実績です(第110回 資料4)。10円化を決めた第4回電力安定供給WG(7月14日)の資料は、14円超の約定が数量では約3%なのに調達費用の約17%を占めたことを理由に挙げています。資料の書き方は「6か月など」で目安ですが、前日取引開始から6か月は9月中旬に当たります。7月29日の第5回、8月31日の第6回のWGに需給調整市場の議題はありませんでした。

同じ資料群に、逆方向の条項があります。「市場において十分な競争が働いていることが確認できた場合には、募集量を増加させる」(第110回 資料4)。1σ相当は暫定で、応札の状況を見て増やす手順が明記されています。減る一方の設計ではありません。応札が増えて競争が確認されることが、募集量を戻す条件そのものです。応札の実態は47-3で数えます。

1σを超えて3σまでの部分は、容量市場で「調整機能有」として落札した電源との余力活用契約で手当てされます。この契約はkWh精算のみで、ΔkWの対価はありません(送配電網協議会)。需要が消えたのではなく、ΔkW対価の付かない経路に移った、というのが正確な言い方です。

7. これから募集量を動かす4つ

中地域交流ループ 運用開始 柏崎刈羽6号 営業運転(4/16) 東北東京間 573→1,028万kW(11月) 東京中部間FC 300万kW(〜2028年度) 関門 300→600万kW(6月) 中部関西間 関ケ原北近江線 同時市場 (2030年代前半) 2026 2027 2028 2029 2030 2031 2032 2033 図7 募集量の器を繋ぐ年表(連系線・原子力・同時市場)

需要の増加。 データセンターと半導体工場の個別計上は、全国最大需要で83万kW(2026年度)→420万kW(2030年度)→762万kW(2035年度)、全国比0.5%→4.6%です(広域機関 需要想定2026)。平常時分は需要のぶれの大きさに比例するので、募集量への効きは数%の桁にとどまります。データセンターが効くのは需給調整市場よりもJEPXの側です(→47-4)。

太陽光。 予測誤差は三次②の必要量に、短い周期のぶれは一次・二次①の平常時分に入ります。供給計画では太陽光が2026年度8,359万kW→2030年度9,642万kWで、こちらは募集量を押し上げる側です。

原子力。 異常時分は「いちばん大きな発電所」で決まります。柏崎刈羽6号(135.6万kW)が2026年2月に発送電を再開し、4月16日に営業運転に入ったことは、東京の一次必要量を押し上げる側に働きます。同時に、原発が動くと夜間に火力が止まるので、火力が座っているオンラインの席が空く方向にも働きます(→47-3)。原発そのものは需給調整市場に応札しません。

連系線。 東北東京間は2027年11月に573→1,028万kW(電源動向により段階的)、東京中部間の周波数変換設備は2028年度までに300万kW、関門は2030年6月に600万kW(広域機関)。需給調整市場はすでに広域で約定しており、連系線に空きがあればエリア外の電源が他エリアの募集量に約定できます。二次①だけは2027年度からです。混雑時は市場が分断されます(EPRX 取引規程 第32条第3項)。管区の募集量は固定の器ではなく、連系線の年表で繋がっていく器です。

その先に同時市場(kWhとΔkWの同時約定、2030年代前半)があります。上限価格と募集量という概念そのものが、逸失利益に基づく最適化約定へ置き換わる方向で検討されています。

まとめ

蓄電池がいつ・どこに来るかは47-3、価格がどこで止まるかは47-4へ。

参考表

参考表1 調達必要量の比 2026年度/2025年度(4〜9月平均)

管区一次二次①複合二次②三次①
北海道0.600.630.880.700.91
東北0.610.620.850.880.83
東京0.680.700.820.920.81
中部0.500.480.670.860.67
北陸0.460.480.760.920.72
関西0.480.490.720.910.70
中国0.470.470.810.980.78
四国0.460.440.630.860.62
九州0.480.470.820.980.87
全国0.550.560.780.900.77

出典:EPRX 調達必要量(2025年度・2026年度 年度当初発効表)から当社計算

参考表2 募集量の比 2026年度/2025年度(4〜8月平均、管区別)

管区一次オン一次オフ二次①複合三次①二次②
北海道0.810.370.871.241.330.96
東北0.750.700.961.121.001.30
東京0.860.420.740.870.840.70
中部0.930.470.761.331.432.58
北陸0.590.410.790.970.970.78
関西0.510.430.480.720.690.82
中国0.550.430.550.940.981.00
四国0.660.630.650.730.740.90
九州0.660.430.811.201.521.86
全国0.710.450.710.970.961.15

出典:EPRX 取引実績(エリア別約定データ)から当社計算

注:参考表1は年度当初発効の必要量表に載っている月(4〜9月)の平均、表1・参考表2は約定データの募集量(TSO別)を4〜8月で平均した値。2026年8月は速報値を含む。図1の84%・99.9%は正規分布の片側の値で、実際の需要のぶれは正規分布ではないため、各一般送配電事業者は「相当量」として算定している。

出典

この記事の監修
中島 晋也(サイエンスエックス株式会社 代表取締役・工学博士)

系統用蓄電池発電所の開発・売買・技術デューデリジェンスを手がける。本コラムは、実案件の組成と評価の実務に基づいて執筆・監修しています。