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条文に「望ましい」と書かれた天井は、誰がどう見ているのか。外れた札はどうなるのか。2021年の市場開設からの5年間を、電力・ガス取引監視等委員会(以下、委員会)と専門会合の資料で追います。問いは一つ、「ΔkW価格の天井は、実際にどこまで効いてきたか」です。条文の中身は50-2 条文編にあります。

1. 5年の流れ

図1 ΔkW価格の監視の年表(2021年4月〜2026年6月)

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ΔkW価格の監視の年表(2021年4月〜2026年6月) 2021年4月市場開設。2022年8月に三次②で347.8円の高値、報告徴収。2023年2月に三次①で10社へ報告徴収。2024年3月改定でA種0.33円とB種協議。2024・2025年度は協議で額を決める。2025年10月に協議の廃止を整理。2026年3月改定で自分で計算する形に。2026年6月、高値約定の計算に見直し要請。 ①高値に報告徴収をかけ、改定 ②協議で額を決める(B種) ③自分で計算 2021年4月 市場開設 2022年8月 三次②で347.8円の高値→報告徴収 2023年2月 三次①で10社に報告徴収 2024年3月 改定:A種0.33円とB種協議 2025年10月 協議の廃止を整理 2026年3月 改定:自分で計算する形に 2026年6月 高値の計算に見直し要請 建議(委員会の提言)は2022年12月13日・2023年11月21日・2024年12月2日・2025年12月10日。改定は翌年3月。
委員会・専門会合の公表資料から当社作成。

流れは三つの段に分かれます。2022〜2023年は、高値が出た商品に報告徴収(事業者に資料の提出を求めること)をかけ、ガイドラインを直す段。2024〜2025年度は、事業者ごとの一定額を委員会の事務局と協議して決める段(B種電源協議)。2026年度からは協議をやめ、事業者が自分で計算し、委員会が後から見る段です。

2. 最初の高値と報告徴収

2022年8月、三次調整力②(需給調整市場の商品の一つ)で最高347.8円/kW・30分の約定が出ました。委員会は8月分の入札価格等について報告徴収を行い、ヒアリングの結果を第78回制度設計専門会合(2022年10月25日)に報告しています。2023年2月には三次調整力①でも、市場参加者10社に入札価格等の報告徴収をかけた、とされています(第509回委員会 資料3)。

この間にガイドラインは毎年直されました。改定は2023年3月10日、2024年3月25日、2025年3月24日、2026年3月13日。それぞれの前に委員会の建議(提言)があります(2022年12月13日、2023年11月21日、2024年12月2日、2025年12月10日)。

3. 協議で決めた2年

2023年11月の建議と、それを受けた2024年3月の改定で、一定額は二つに分かれました。誰でも使える0.33円(A種)と、固定費を取り戻すために事務局と協議して決める額(B種)です。2024年度と2025年度の2年間、B種の額は協議で決まりました。協議が必須だったのは、市場で大きな力を持つ可能性が高いとされた事業者で、それ以外には「必須としない」と書かれていました。

図2 B種電源協議の件数(2024年度・2025年度)

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B種電源協議の件数 2024年度は5件(電源3件、蓄電池VPP2件)。2025年度は34件(電源28件、蓄電池1件、蓄電池VPP5件。2025年10月17日時点)。 0 5 10 15 20 25 30 35 件 3件 0件 2件 2024年度 28件 1件 5件 2025年度(10月17日時点) 電源 蓄電池 蓄電池VPP
第14回制度設計・監視専門会合(2025年10月29日)資料3より当社作成。2025年度は2025年10月17日時点。

協議の実績は公表されています。2024年度は5件、2025年度は2025年10月17日時点で34件。資料の区分では、電源28件、蓄電池1件、蓄電池VPP5件です。2025年度に申請が増えた理由として、資料は2025年度の容量市場の約定価格が前年度より大きく下がったことを挙げています。

協議額の水準について、資料は数字を少しだけ出しています。1.64円/ΔkW・30分を超えるものは、より厳正に個別に精査した。当初の申請には1,000円/ΔkW・30分を超える価格帯のものもあった。そして協議額は「実質的に約定困難な高価格水準」にあった、と評価しています。一つひとつの協議額は公表されていません。

図3 天井と市場の位置関係(円/ΔkW・30分)

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天井と市場の位置関係 上限10円、2026年9月の一次オフラインの加重平均は東北9.51円・中部3.69円、協議で厳正に精査する線1.64円、2MW/8MWhの一定額は1年目1.411円・2年目0.959円、A種0.33円。 0 2 4 6 8 10 円/ΔkW・30分 市場の上限(2026年9月〜) 10.00 9月の一次オフライン・東北 9.51 9月の一次オフライン・中部 3.69 協議で「厳正に精査」の線 1.64 2MW/8MWhの一定額・1年目(試算) 1.41 2MW/8MWhの一定額・2年目(試算) 0.96 A種(誰でも使える額) 0.33
9月の価格はEPRX取引結果(速報値)の当社集計(50-4 市場編)。2MW/8MWhの一定額は当社試算(50-3 試算編、東京)。1.64円は第14回 資料3。

ここに、この連載の主題が出ています。協議の大半は蓄電池・蓄電池VPP以外の電源で、その一定額は市場の約定価格より上にありました。天井が高く、収益の上限としては当たらなかった、と読めます。蓄電池は事情が違います。1日のほとんどのコマに札を入れられるので割る量が大きく、同じ式で置くと一定額は1円前後になります(50-3 試算編)。同じ天井が、ほかの電源には届かず、蓄電池には届きます。

固定費の回収状況も報告されています。第21回制度設計・監視専門会合(2026年6月19日)の資料6は、2025年度に協議済みのB種電源9社37件(電源28件、蓄電池4件、蓄電池VPP5件)を確かめ、回収を終えたものは終えた時点でA種に移っていたこと、未回収のものの回収率は約1〜88%程度だったことを示しました。この回収率は固定費回収の上限額に対する比率で、固定費全体に対する比率ではない、と注記されています。

協議で「より厳正に」見られた1.64円という線は、蓄電池の一定額を測る目安にもなります。当社が公表値で置いた2MW/8MWhの一定額は、運開1年目でも1.411円で、この線の下にあります。協議が無くなった後も、この水準を超える一定額には、超える理由の説明が要ると見ておくのが無難です。

4. 協議で直された費目

協議の中で、固定費から外すよう求められた費目もあります。事業報酬、支払利息、法人税、容量拠出金、少なすぎる想定約定量などです(第14回 資料3 p.41〜43)。卸電力市場の収益がマイナスの見込みのときは、ゼロとして扱った例もあります。このうち法人税と容量拠出金は、2026年3月の改定で「含めない」と条文に入りました。

協議とは別に、事後監視で見つかった事案も報告されています。過年度分や将来分の固定費を1年で取り戻そうとした例と、当年度の固定費を回収した後も0.33円に戻さなかった例です(第14回 資料3 p.33)。どれも、条文の「当年度分」という言葉が何を締めているかを示しています。

5. 2026年度 ── 協議をやめ、後から見る

第14回の専門会合で、B種電源協議の廃止が整理されました。2026年度からは、事業者が自分で一定額を計算します。市場で大きな力を持つ可能性が高いとされた事業者は、取引開始前に入札価格の考え方の確認を受け、四半期ごとにB種電源の固定費回収状況を報告します。それ以外の事業者には、同じ考え方が「望ましい」とされています(ガイドライン p.4〜5)。A種の0.33円で札を入れている電源は、報告の対象になりません。

その最初の結果が、第21回(2026年6月19日)の資料6です。2026年度に入ってから高値で約定した事業者への確認で、事務局は次のような計算を見つけ、算定方法の見直しを求めました。

2026年6月、見直しを求められた計算(第21回 資料6 p.4)
・合理的な理由なく、「札を入れられる量」ではなく「落札できそうな量」で一定額を計算していた。
・半年だけ需給調整市場に出す予定なのに、1年分の固定費で一定額を計算していた。
・ほかの市場の収入を見込んでいない、あるいはほとんど見込んでいなかった。

三つとも、条文編で読んだ「割る量」「期間按分」「ほかの市場の収入」の段に当たります。対応は「見直しを求めた」で、業務改善勧告や命令に進んだ公表事例は、確認できた範囲ではありません。第22回(2026年7月31日)以降の資料は確かめ切れていません。未確定

6. これから出てくるもの

2026年度は、四半期ごとの固定費回収状況の報告と、高値の約定への事後のヒアリングが回る最初の年です。第21回の資料6は年度の最初の報告でした。上限が10円になった9月以降の分が、どの会合でどう扱われるかは、まだ見えていません。未確定委員会の専門会合の資料は、開催後に委員会のサイトに載ります。当社は新しい資料が出たら、この記事を足していきます。

7. 海外はどこまで縛っているか

確認した6つの市場の範囲では、調整力の容量価格に、固定費から逆算した上乗せを事業者ごとに認める例は見当たりませんでした(米PJMは定額の上乗せ)。海外のルールは、市場で大きな力を持つ事業者や局面に絞ったものが中心です。

市場対象ルール誰に
米PJM周波数調整(Regulation)コストに基づく札(実コスト+$12/MWhまで)を出させ、価格ベースの札は$100/MWhが上限三社ピボタル供給者テストに落ちた事業者はコストベースの札が上限
米PJM同期予備力コストに基づく札全事業者
米NYISO予備力・Regulation容量参照価格から大きく外れた札を緩和(300%増または$50/MWの低いほうが閾値。$5/MW未満の札は対象外)行為テストと影響テストを満たした場合
米CAISO調整力(Ancillary Services)入札上限$250/MWh全事業者(上限だけ)
英国需給調整機構(BM)の入札送電制約時に過大な利益を得る札を禁止(TCLC)送電制約の時間帯
EUバランシングエネルギーの価格EU共通の技術的価格上限・下限(±15,000€/MWh。日中市場の上限に連動)。容量価格はこの決定に規定なし全事業者(kWhの価格)

出典:PJM Manual 11・Manual 15、PJM Operating Agreement Schedule 1 §3.2.2A、Monitoring Analytics「State of the Market Report for PJM」2026年第1四半期 第10章、NYISO Market Services Tariff Attachment H 23.3、CAISO Tariff Section 39、Ofgem「Transmission Constraint Licence Condition Guidance」(2024年6月)、ACER Decision 09/2024 Annex II。

米国の容量側のルールは、機会費用を中心にしたコストベースで、日本の式の第1項に近い形です。固定費から逆算した額を上乗せする形は、確認した範囲ではありませんでした(PJMの$12/MWhは定額の上乗せ)。英国とEUのルールは、主にkWhの価格にかかります。日本の天井は二つの点で広く、深く効きます。全事業者に「望ましい」とされていること。そして、固定費から逆算した上乗せを認めつつ、その上乗せが蓄電池では小さく出ることです。

当社の見方。条文は「望ましい」で義務ではありませんが、実務では守るものとして扱われています。オーナーが知っておくべきなのは、その差です。差を埋めるのは、自分の札を式で説明できるように整えておくこと。固定費を明細で特定して積む、逸失利益を自分で数えて文書にする、容量市場には必ず応札する、「回収した」の数え方を先に決める。式は毎年12月ごろの建議と3月の改定で見直されていて、次は2026年12月です。具体は入口の7項目に書きました。

8. 持っている人が残しておくもの

協議がなくなったことで、根拠を残す責任は事業者の側に移りました。2MWの所有者が手元に置いておきたいのは、次のものです。

どれも、委員会から説明を求められたときに、その年の札が式の内側にあったことを示すための材料です。式の中で決まらない項目は、条文編の最後に確かめる先と並べています。

出典

この記事の監修
中島 晋也(サイエンスエックス株式会社 代表取締役・工学博士)

系統用蓄電池発電所の開発・売買・技術デューデリジェンスを手がける。本コラムは、実案件の組成と評価の実務に基づいて執筆・監修しています。