条文に「望ましい」と書かれた天井は、誰がどう見ているのか。外れた札はどうなるのか。2021年の市場開設からの5年間を、電力・ガス取引監視等委員会(以下、委員会)と専門会合の資料で追います。問いは一つ、「ΔkW価格の天井は、実際にどこまで効いてきたか」です。条文の中身は50-2 条文編にあります。
1. 5年の流れ
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流れは三つの段に分かれます。2022〜2023年は、高値が出た商品に報告徴収(事業者に資料の提出を求めること)をかけ、ガイドラインを直す段。2024〜2025年度は、事業者ごとの一定額を委員会の事務局と協議して決める段(B種電源協議)。2026年度からは協議をやめ、事業者が自分で計算し、委員会が後から見る段です。
2. 最初の高値と報告徴収
2022年8月、三次調整力②(需給調整市場の商品の一つ)で最高347.8円/kW・30分の約定が出ました。委員会は8月分の入札価格等について報告徴収を行い、ヒアリングの結果を第78回制度設計専門会合(2022年10月25日)に報告しています。2023年2月には三次調整力①でも、市場参加者10社に入札価格等の報告徴収をかけた、とされています(第509回委員会 資料3)。
この間にガイドラインは毎年直されました。改定は2023年3月10日、2024年3月25日、2025年3月24日、2026年3月13日。それぞれの前に委員会の建議(提言)があります(2022年12月13日、2023年11月21日、2024年12月2日、2025年12月10日)。
3. 協議で決めた2年
2023年11月の建議と、それを受けた2024年3月の改定で、一定額は二つに分かれました。誰でも使える0.33円(A種)と、固定費を取り戻すために事務局と協議して決める額(B種)です。2024年度と2025年度の2年間、B種の額は協議で決まりました。協議が必須だったのは、市場で大きな力を持つ可能性が高いとされた事業者で、それ以外には「必須としない」と書かれていました。
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協議の実績は公表されています。2024年度は5件、2025年度は2025年10月17日時点で34件。資料の区分では、電源28件、蓄電池1件、蓄電池VPP5件です。2025年度に申請が増えた理由として、資料は2025年度の容量市場の約定価格が前年度より大きく下がったことを挙げています。
協議額の水準について、資料は数字を少しだけ出しています。1.64円/ΔkW・30分を超えるものは、より厳正に個別に精査した。当初の申請には1,000円/ΔkW・30分を超える価格帯のものもあった。そして協議額は「実質的に約定困難な高価格水準」にあった、と評価しています。一つひとつの協議額は公表されていません。
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ここに、この連載の主題が出ています。協議の大半は蓄電池・蓄電池VPP以外の電源で、その一定額は市場の約定価格より上にありました。天井が高く、収益の上限としては当たらなかった、と読めます。蓄電池は事情が違います。1日のほとんどのコマに札を入れられるので割る量が大きく、同じ式で置くと一定額は1円前後になります(50-3 試算編)。同じ天井が、ほかの電源には届かず、蓄電池には届きます。
固定費の回収状況も報告されています。第21回制度設計・監視専門会合(2026年6月19日)の資料6は、2025年度に協議済みのB種電源9社37件(電源28件、蓄電池4件、蓄電池VPP5件)を確かめ、回収を終えたものは終えた時点でA種に移っていたこと、未回収のものの回収率は約1〜88%程度だったことを示しました。この回収率は固定費回収の上限額に対する比率で、固定費全体に対する比率ではない、と注記されています。
協議で「より厳正に」見られた1.64円という線は、蓄電池の一定額を測る目安にもなります。当社が公表値で置いた2MW/8MWhの一定額は、運開1年目でも1.411円で、この線の下にあります。協議が無くなった後も、この水準を超える一定額には、超える理由の説明が要ると見ておくのが無難です。
4. 協議で直された費目
協議の中で、固定費から外すよう求められた費目もあります。事業報酬、支払利息、法人税、容量拠出金、少なすぎる想定約定量などです(第14回 資料3 p.41〜43)。卸電力市場の収益がマイナスの見込みのときは、ゼロとして扱った例もあります。このうち法人税と容量拠出金は、2026年3月の改定で「含めない」と条文に入りました。
協議とは別に、事後監視で見つかった事案も報告されています。過年度分や将来分の固定費を1年で取り戻そうとした例と、当年度の固定費を回収した後も0.33円に戻さなかった例です(第14回 資料3 p.33)。どれも、条文の「当年度分」という言葉が何を締めているかを示しています。
5. 2026年度 ── 協議をやめ、後から見る
第14回の専門会合で、B種電源協議の廃止が整理されました。2026年度からは、事業者が自分で一定額を計算します。市場で大きな力を持つ可能性が高いとされた事業者は、取引開始前に入札価格の考え方の確認を受け、四半期ごとにB種電源の固定費回収状況を報告します。それ以外の事業者には、同じ考え方が「望ましい」とされています(ガイドライン p.4〜5)。A種の0.33円で札を入れている電源は、報告の対象になりません。
その最初の結果が、第21回(2026年6月19日)の資料6です。2026年度に入ってから高値で約定した事業者への確認で、事務局は次のような計算を見つけ、算定方法の見直しを求めました。
・合理的な理由なく、「札を入れられる量」ではなく「落札できそうな量」で一定額を計算していた。
・半年だけ需給調整市場に出す予定なのに、1年分の固定費で一定額を計算していた。
・ほかの市場の収入を見込んでいない、あるいはほとんど見込んでいなかった。
三つとも、条文編で読んだ「割る量」「期間按分」「ほかの市場の収入」の段に当たります。対応は「見直しを求めた」で、業務改善勧告や命令に進んだ公表事例は、確認できた範囲ではありません。第22回(2026年7月31日)以降の資料は確かめ切れていません。未確定
6. これから出てくるもの
2026年度は、四半期ごとの固定費回収状況の報告と、高値の約定への事後のヒアリングが回る最初の年です。第21回の資料6は年度の最初の報告でした。上限が10円になった9月以降の分が、どの会合でどう扱われるかは、まだ見えていません。未確定委員会の専門会合の資料は、開催後に委員会のサイトに載ります。当社は新しい資料が出たら、この記事を足していきます。
7. 海外はどこまで縛っているか
確認した6つの市場の範囲では、調整力の容量価格に、固定費から逆算した上乗せを事業者ごとに認める例は見当たりませんでした(米PJMは定額の上乗せ)。海外のルールは、市場で大きな力を持つ事業者や局面に絞ったものが中心です。
| 市場 | 対象 | ルール | 誰に |
|---|---|---|---|
| 米PJM | 周波数調整(Regulation) | コストに基づく札(実コスト+$12/MWhまで)を出させ、価格ベースの札は$100/MWhが上限 | 三社ピボタル供給者テストに落ちた事業者はコストベースの札が上限 |
| 米PJM | 同期予備力 | コストに基づく札 | 全事業者 |
| 米NYISO | 予備力・Regulation容量 | 参照価格から大きく外れた札を緩和(300%増または$50/MWの低いほうが閾値。$5/MW未満の札は対象外) | 行為テストと影響テストを満たした場合 |
| 米CAISO | 調整力(Ancillary Services) | 入札上限$250/MWh | 全事業者(上限だけ) |
| 英国 | 需給調整機構(BM)の入札 | 送電制約時に過大な利益を得る札を禁止(TCLC) | 送電制約の時間帯 |
| EU | バランシングエネルギーの価格 | EU共通の技術的価格上限・下限(±15,000€/MWh。日中市場の上限に連動)。容量価格はこの決定に規定なし | 全事業者(kWhの価格) |
出典:PJM Manual 11・Manual 15、PJM Operating Agreement Schedule 1 §3.2.2A、Monitoring Analytics「State of the Market Report for PJM」2026年第1四半期 第10章、NYISO Market Services Tariff Attachment H 23.3、CAISO Tariff Section 39、Ofgem「Transmission Constraint Licence Condition Guidance」(2024年6月)、ACER Decision 09/2024 Annex II。
米国の容量側のルールは、機会費用を中心にしたコストベースで、日本の式の第1項に近い形です。固定費から逆算した額を上乗せする形は、確認した範囲ではありませんでした(PJMの$12/MWhは定額の上乗せ)。英国とEUのルールは、主にkWhの価格にかかります。日本の天井は二つの点で広く、深く効きます。全事業者に「望ましい」とされていること。そして、固定費から逆算した上乗せを認めつつ、その上乗せが蓄電池では小さく出ることです。
8. 持っている人が残しておくもの
協議がなくなったことで、根拠を残す責任は事業者の側に移りました。2MWの所有者が手元に置いておきたいのは、次のものです。
- 固定費の内訳。減価償却の置き方、修繕費、発電側課金、アグリゲーター費用のうち固定費として特定したもの。
- 札を入れられる量の根拠。充放電の制約と、札を入れられるコマの数え方。
- 容量市場の記録。運開日と、容量市場に応札できたか・応札したか・約定したか。見なし控除の要否はここで決まります。
- 委託先の立場。アグリゲーターが事前的措置の対象事業者か、四半期報告に自分の蓄電所がどう入るか。
どれも、委員会から説明を求められたときに、その年の札が式の内側にあったことを示すための材料です。式の中で決まらない項目は、条文編の最後に確かめる先と並べています。
出典
- 経済産業省「需給調整市場ガイドライン」2026年3月13日改定(参考:これまでの検討経緯 p.10〜13) https://www.egc.meti.go.jp/info/guideline/pdf/20260313001a.pdf
- 電力・ガス取引監視等委員会 第78回制度設計専門会合 資料3(2022年10月25日) https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/078_03_00.pdf
- 電力・ガス取引監視等委員会「需給調整市場ガイドライン」の改定等の建議(2023年11月21日) https://www.egc.meti.go.jp/info/public/pdf/20231121001a.pdf
- 電力・ガス取引監視等委員会 第509回 資料3(2024年4月16日) https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc/pdf/509_03_00.pdf
- 電力・ガス取引監視等委員会 第14回制度設計・監視専門会合 資料3(2025年10月29日) https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/014_03_00.pdf
- 同 第21回制度設計・監視専門会合 資料6(2026年6月19日) https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_systemsurveillance/pdf/021_06_00.pdf
- e-Gov「需給調整市場ガイドライン」改定案に対する意見募集の結果(2026年3月13日) https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000309544
- PJM「Manual 11: Energy & Ancillary Services Market Operations」/Monitoring Analytics「2026 Quarterly State of the Market Report for PJM: January through March」Section 10 https://www.monitoringanalytics.com/reports/PJM_State_of_the_Market/2026/2026q1-som-pjm-sec10.pdf
- NYISO Market Services Tariff Attachment H 23.3 https://nyisoviewer.etariff.biz/ViewerDocLibrary/MasterTariffs/9TariffSections/2505.htm
- CAISO Tariff Section 39(Market Power Mitigation Procedures) https://www.caiso.com/documents/section-39-market-power-mitigation-procedures-as-of-aug-1-2024.pdf
- Ofgem「Transmission Constraint Licence Condition Guidance」(2024年6月) https://www.ofgem.gov.uk/sites/default/files/2024-06/TCLC_guidance_10June24.pdf
- ACER Decision 09/2024 Annex II https://eepublicdownloads.entsoe.eu/clean-documents/nc-tasks/ACER_Decision_09-2024_on_Pricing-Annex_II.pdf