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一次オフラインの札には、2026年9月1日の実需給分から10.00円/ΔkW・30分という上限があります。ここまでは「市場の天井」で、全員に同じ高さです。

その下に、事業者ごとに高さの違う天井がもう一枚あります。需給調整市場ガイドライン(2026年3月13日改定)のⅢ.2です。この記事は条文だけを読みます。問いは一つ、「蓄電所の札の値段の上限は、条文ではどう決まっているか」。数字を入れた試算は50-3 試算編に分けました。

1. 式は一行

条文の式はこれだけです。

ΔkW価格 ≦ 当該電源等の逸失利益(機会費用)+ 一定額等
図1 札の値段の式(需給調整市場ガイドライン p.4・p.6)

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札の値段の式 ΔkW価格は、逸失利益(卸電力市場で稼ぎそこねる分)+一定額(固定費を取り戻す分:A種0.33円かB種の計算値)+売買手数料0.06円の合計以下にするのが望ましい。市場の上限10円と比べて低い方が実際の天井になる。 札の値段(ΔkW価格) ≦ 逸失利益 + 一定額 + 売買手数料 逸失利益(機会費用) 力を空けておくことで、卸電力市場で 稼ぎそこねる分。蓄電池の式は無い + 一定額 固定費を取り戻す分。A種は0.33円、 B種は(固定費−他市場の収入)÷札の量 + 売買手数料 2026年度は(税抜) 0.06円/ΔkW・30分 条文の例は発電機の話 その年の固定費を回収したら0.33円に落ちる この式の中にある札は「市場相場を動かす目的ではない」とみなされ、業務改善命令の対象にならない(セーフハーバー)。 市場の上限10円と比べて、低いほうが実際の天井になる。
「等」は売買手数料。2026年度のEPRXの売買手数料は0.06円/ΔkW・30分(税抜)。市場の上限10円と比べて低いほうが実際の天井になる。

この式を満たす札は「市場相場を変動させることを目的としていないとみなされ」、守っている限り業務改善命令の対象にならない、と書かれています(p.4)。冒頭のⅠは、これを「セーフハーバー」(安全な港)と呼んでいます(p.1)。

誰に向けた式かも書いてあります。市場で大きな力を持つ可能性が高いとされた事業者には、この価格で登録することが「望ましい」。それ以外の事業者にも「望ましい」(p.4〜5)。2025年3月版では前者に「要請する」でしたから、言い方は少し弱くなっています。

ただ、同じ改定で「問題となる行為」が書き足されました。Ⅳ.1は「調整力ΔkW市場における入札価格若しくは入札量…の不合理な設定により、不当に収益を得る行為」を、業務改善命令や勧告の対象となり得る行為として挙げています(p.9)。市場での力の大小で区切っていません。式は義務ではありませんが、式から外れた札は、外れた理由を説明できなければ危うい。実務上は天井として効く、と読むのが素直です。

2. 逸失利益 ── 蓄電池用の式は無い

式の第1項「逸失利益(機会費用)」は、需給調整市場のために力を空けておくことで、ほかで稼ぎそこねる分のことです。条文は「需給調整市場への応札に伴い発生するもの」と定義し(p.5)、二つの型を挙げています。一つは、本来なら動かさない発電機を追加で起動する場合の起動費など。もう一つは、卸電力市場に出すはずだった出力を下げる場合の、卸電力市場の価格と燃料費などの差額です。

卸電力市場の価格は「時間前市場価格の想定価格」で、それは「スポット市場価格を基に算定する」とされています(p.6)。蓄電池の燃料費に当たるもの(限界費用)は、充電にかかった電気代で、インバランス補給で充電した電気は使えない、とされています(p.3)。

二つの型は、どちらも発電機の話です。蓄電池が放電を控えて力を空けておくときの逸失利益を、どう数えるかを書いた式はありません。未確定確かめる先は電力・ガス取引監視等委員会事務局 ネットワーク事業監視課です。当社は、47-4 床編で数えた「蓄電池がJEPXで稼げる額」がこの項にいちばん近いと見ていますが、条文の言葉ではありません。

3. 一定額 ── A種0.33円とB種

「一定額」については、0.33円/ΔkW・30分(A種電源)又は「固定費回収のための合理的な額」の考え方に基づき算定した額(B種電源)とし、「等」は売買手数料とする。需給調整市場ガイドライン 2026年3月13日改定 p.6

A種は誰でも使える0.33円。B種は、固定費をまだ取り戻していない間だけ使える「計算した額」です。すぐ下に一文があります。「当年度分の固定費回収後の一定額は、A種電源とする」。その年の固定費を回収し終えたら、その時点から0.33円に落ちます。

B種の額は、三つの文で決まります(p.6)。条文は数式の形では書いておらず、文章で定義しています。

これを一つの式にまとめた「(当年度分の固定費-他市場から得られる収益)÷想定応札量」という形は、第21回制度設計・監視専門会合(2026年6月19日)の資料6 p.4の注にあります。この連載で「一定額の式」と書くときは、この三つの文のことです。

図2 B種の一定額を出す4つの段(需給調整市場ガイドライン p.6〜7)

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B種の一定額を出す4つの段 ①1年分の固定費(人件費・減価償却費・修繕費・委託費・発電側課金のkW分。法人税と容量拠出金は入れない)。②ほかの市場の収入を引く(容量市場は出ていなくても引く)。③札を入れられる量で割る(点検停止や充放電の制約を考慮)。④一定額。これに逸失利益と0.06円を足したものが天井で、固定費を回収したら0.33円。 ① 1年分の固定費を足す ・入れる(例示):人件費・減価償却費・修繕費・委託費・発電側課金のkW分 ・条件つき:アグリゲーター費用は「固定費を特定した上で」、システム改修費は回収計画つき ・入れない:法人税・容量拠出金(事業報酬・支払利息も認められなかった) ② ほかの市場の収入を引く ・容量市場の収入・卸電力市場の収入・相対契約の収入など ・容量市場は、出ていなくても「出ていれば得られた額」を引く(エリアプライス×期待容量) ・引かなくてよいのは2つだけ:運開が新しくて応札できなかった年/応札したが落ちた ③ 札を入れられる量で割る ・「約定した量」ではなく「札を入れられる量」。点検で止まる期間や充放電の制約だけ差し引く ・蓄電池は1日48コマのほとんどに札を入れられる=割る量が大きい=一定額は小さく出る ・約定を少なく見積もって一定額を大きくする道は、2026年改定で閉じられた ④ 一定額が決まる ・札の天井=逸失利益+一定額+手数料0.06円。市場の上限10円と比べて低いほう ・その年の固定費を回収し終えたら、その時点から0.33円(A種)に落ちる ・計算した額がマイナスや0.33円未満のときは0.33円と読む(当社の読み)
①〜③は条文の順。④の「マイナスや0.33円未満のときは0.33円」は条文に明記がなく、当社の読み。

4. 固定費に入れるもの、入れないもの

条文は「例えば、以下のような項目が含まれる」として、人件費、減価償却費、修繕費、委託費、発電側課金のkW課金分を挙げます(p.7)。「例えば」が付いているので、例示です。はっきり除くと書かれているのは法人税と容量拠出金の二つだけです。

入れる(例示)
固定費の中身
  • 人件費
  • 減価償却費
  • 修繕費
  • 委託費
  • 発電側課金のkW課金分
  • 蓄電ロス分の託送基本料金(意見募集の回答で「計上可能」)
条件つきで入る
特定・計画が要るもの
  • アグリゲーター費用(人件費・システム費用等)は「固定費を特定した上で」
  • 市場参加のためのシステム改修費は「年度単位の回収計画を立てた上で」
  • FIP電源に併設した蓄電池は、蓄電池分の固定費だけ
入れない
条文と協議で外されたもの
  • 法人税・容量拠出金(条文)
  • 事業報酬(意見募集の回答)
  • 支払利息・社債利息(協議で外すよう求めた例)
  • 固定資産税・保険料・土地賃料は条文に記載なし(未確定)

アグリゲーター費用の書き方には経緯があります。協議では、アグリゲーターの成功報酬(メリットシェア)をそのまま固定費に足した例があり、事務局は明細を確かめて人件費やシステム費用だけを計上した、とされています(第15回制度設計・監視専門会合 資料7)。成功報酬を入れてはいけない、とは書かれていません。歩合のうち、固定費として特定できた分が入る、と読むのが素直です。手数料の仕組みはCOLUMN 17にあります。

5. ほかの市場の収入を引く ── 出ていなくても引かれる

他市場収益には「例えば、容量市場収入、卸電力市場収益及び相対収益等が含まれる」(p.7)。蓄電池に効くのは容量市場の扱いです。

容量市場収入がない場合は、容量市場収入が得られる前提で他市場収益として控除する。需給調整市場ガイドライン 2026年3月13日改定 p.7

引く額は「約定価格(電力広域的運営推進機関が公表するエリアプライス)×容量市場における期待容量」です。容量市場に出ていない蓄電所でも、出ていれば得られた額を引きます。引かなくてよいのは「新規に運開したため、時間的に容量市場に応札できなかった電源等」と「容量市場に応札したが約定しなかった電源等」の二つだけです。

図3 容量市場に出ていなくても引かれる(需給調整市場ガイドライン p.7)

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容量市場に出ていなくても引かれる 一定額の計算では、容量市場の収入が無くても「エリアプライス×期待容量」を得たものとして引く。例外は、運開が新しくて時間的に応札できなかった年と、応札したが約定しなかった場合の2つ。 容量市場に出て、約定した 実際の収入が入る (2029年度 東京15,111円/kW) 一定額の計算では 実際の収入を引く 容量市場に出ていない 収入はゼロ 一定額の計算では 出た前提の額を引く 出たが、落ちた/運開が新しい 応札したが約定しなかった または時間的に応札できなかった 一定額の計算では 引かなくてよい 「事業者の判断で出さなかった」場合は例外になりません(改定案への意見は採用されず)。 2MW/8MWhの東京の試算では、この見なし収入2,138万円が、2年目に一定額を0.45円下げます。
期待容量は、設備の出力に広域機関が公表する調整係数を掛けた値(50-3 試算編)。

短い期間で運開できる蓄電池は、前者に当たるものが大半だったとされています(第15回 資料7)。引き始める年に一定額は大きく下がり、当社の試算ではそれが20年でいちばん大きい段差でした(50-3 試算編)。何年目まで「時間的に応札できなかった」と言えるかは、条文にありません。未確定

6. 札を入れられる量で割る

割る量は「定期検査や燃料制約等による停止期間や蓄電池の充放電制約等を考慮し、当年度に応札することが可能なΔkWを基に、応札事業者が…算定する」(p.7)。落札できそうな量ではなく、札を入れられる量です。この分母は、第15回制度設計・監視専門会合(2025年11月21日)で「想定約定量」から「想定応札量」に見直されました。落札を少なく見込んで一定額を大きくする道は、ここで閉じています。

蓄電池は1日48コマのほとんどに札を入れられます。分母が大きいので、一定額は小さくなります。定期検査などで止まる期間を分母から引く電源とは、ここが違います。

7. 何が新しいのか

図4 ガイドラインの歩み(策定2021年3月30日〜2026年3月13日改定)

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ガイドラインの歩み 2021年3月30日策定、2023年3月10日・2024年3月25日・2025年3月24日・2026年3月13日に改定。2024・2025年度はB種電源協議で額を決め、2026年度からは事業者が自分で計算し、委員会が後から見る。 2021年3月 式はこの時から 2023年3月 逸失利益の整理 2024年3月 A種0.33円とB種協議 2025年3月 固定費−他市場収入 2026年3月 ÷札の量・費目の例示 2024・25年度:協議で額を決める 2026年度〜:自分で計算
改定の前には委員会の建議がある(2022年12月13日、2023年11月21日、2024年12月2日、2025年12月10日)。2026年3月13日改定は3月14日受渡分から適用。

「固定費から他市場の収入を引いて割る」式そのものは、新しくありません。2021年1月29日に公正取引委員会と経済産業省が共同で意見募集した策定案(経済産業省作成)に、すでにありました。2025年3月版の条文には分子までしかなく、B種の額は「電力・ガス取引監視等委員会事務局との協議を経て決定した額」でした。新しいのは三つです。割る量が「札を入れられる量」になったこと、固定費に入れる・入れない費目の例示が条文に入ったこと、そして事務局との協議(B種電源協議)が無くなり、自分で計算して根拠を残す形になったことです。改定後の条文は2026年3月14日受渡分から適用されています(p.9)。

8. 条文の外で決まっていること

条文の余白は、専門会合の整理と、改定案への意見募集の回答(2026年3月13日公表。公正取引委員会・資源エネルギー庁の連名でe-Govに掲載)で一部埋まっています。蓄電池に効くものを拾います。

9. 2MW/8MWh・一次オフラインに当てると

一次オフラインは独立した商品ではなく、一次調整力の中の「監視のしかた」の区分です。高圧で1MW以上10MW未満の蓄電池は、専用線を引かずにオフラインで参入できます(EPRX「揚水発電設備または蓄電池設備を用いて需給調整市場に参入する場合の取扱いガイド」第3版 p.24)。オフライン監視の要件は、応動時間が30秒以内、継続時間は「設定なし」、最低入札量は1MWです(EPRX「需給調整市場の商品要件と取引スケジュール」第6版 p.2)。商品の全体像はCOLUMN 15にあります。

高圧の2MWはアグリゲーター経由で札を入れることが多く、ここで条文の言葉が一つ足りなくなります。式は「当該電源等」ごとですが、「電源等」がアグリゲーターの入札単位(リスト・パターン)を指すのか、一つひとつの蓄電所を指すのかは定義がありません。未確定束ねたときの固定費と札の量の割り振りも同じです。

事前の確認と四半期ごとの報告を受けるのは、市場で大きな力を持つ可能性が高いとされた事業者です(p.4〜5)。2MWの所有者本人がそこに入ることは考えにくいですが、委託先のアグリゲーターが入っていれば、その枠組みの中で札が入ります。対象の事業者は、監視等委員会の制度設計・監視専門会合の資料で示されています。

10. 条文に無いこと

条文を読み切っても決まらないことを、確かめる先と並べます。本文の「未確定」はすべてここに対応します。

委員会や広域機関の資料で答えが公表された項目から、この記事を直していきます。

出典

この記事の監修
中島 晋也(サイエンスエックス株式会社 代表取締役・工学博士)

系統用蓄電池発電所の開発・売買・技術デューデリジェンスを手がける。本コラムは、実案件の組成と評価の実務に基づいて執筆・監修しています。