消えたのは「電圧を保つ働き」でした。はずみではありません。
2025年4月28日の昼12時33分(現地時間)、スペインとポルトガルの本土が丸ごと停電しました。欧州の送電会社の団体ENTSO-Eは「欧州で20年以上ぶりの、最も深刻な停電」と呼んでいます。この日、昼の太陽光の割合はきわめて高い状態でした。
停電の直後、「再エネが多くて、はずみが足りなかったからだ」という説明が広まりました。ところが、スペイン政府の報告(2025年6月17日)も、送電会社REEの報告(同6月18日)も、ENTSO-Eの最終報告(2026年3月20日)も、主因を別のところに置きました。
電圧が上がり、発電機が次々に外れた
ENTSO-Eの最終報告は、原因を「系統の揺れ(振動)、電圧と無効電力の制御の不備、電圧を調整するやり方の違い、スペインで発電機が急に出力を落として次々に外れたこと、安定させる力のばらつき」の組み合わせとしました。順番はこうです。昼の系統で電圧が上がり始める。電圧を抑える役の発電機が足りない。上がりすぎた電圧から自分を守るために、発電所が保護装置で系統から外れる。外れるほど、さらに電圧が上がる。この連鎖が数十秒で進み、フランスとの連系線が切れ、全系が崩れました。スペイン政府の報告は、前日に電圧調整の役として計画した同期発電機10基について、当日つないだ数が年初来で最も少なく、計画された発電所の一部が規定どおりに電圧を調整しなかった、と書いています。
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「はずみ(慣性)が足りなかった」を主因に挙げた報告は、スペイン政府・REE・ENTSO-Eのどれにもありません。ENTSO-E理事会議長のダミアン・コルティナス氏は最終報告の発表で「問題は再エネではなく、発電の種類によらず電圧の制御だ」と述べています(Science Media Centre España)。
発電機は、なぜ電圧を保てるのか
電圧は、電気を送電線に押し出す「圧力」です。水道の水圧と同じで、高すぎても低すぎても機器が壊れます。回る発電機は、中の磁石の強さ(励磁)を強めたり弱めたりして、この圧力を上げ下げできます。押す力が足りなければ強め、上がりすぎれば弱める。これを人が命令しなくても自動でやるのが「電圧を保つ働き」です。太陽光や蓄電池も、インバータ(直流を交流に変える装置)に設定すれば同じことができます。ただし当時のスペインでは、それが求められていませんでした。
48-2で見た3つのおまけのうち、この日足りなかったのは、この「電圧を保つ働き」でした。回る機械が減った昼の系統では、誰かがその役を引き受けないと、同じことが起きます。
スペインの答えは速かった。停電から2か月後の2025年6月12日に運用ルールを変え、太陽光や風力も電圧の調整に参加できるようにし、2026年3月17日に全面実施しました(SolarPower Europe)。送電会社REEは2026年2月に、蓄電池の接続枠を16GW確保していると公表しています。事故のあと、電圧を保つ役は「回る機械のおまけ」から「誰かに頼む仕事」に変わりました。
日本では
日本では、電圧を保つ働きは送配電会社の技術要件(託送供給等約款・系統連系技術要件)で確保されていて、値段のつく市場にはなっていません。回る機械が減ったときに誰が電圧を保つかは、電力広域的運営推進機関のグリッドコード検討会で検討されています。蓄電池は、設定すれば電圧の調整にも周波数の調整にも使える設備です。
- 48-2昔は蓄電池がなくても回っていたよね
- 48-3回る機械が減った系統では、何が消えるのか(この記事)
- 48-4なぜ「10秒」なのか
- 48-5再エネが増えるほど、調整力が要るのか
- 48-10データセンターが増えると、なぜ蓄電池なのか
- 48-11太陽光は、これからどうなる
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- 48-13蓄電池は、どれだけ増えるのか
- 48-14国は、蓄電池を増やしたいのか
- 48-15インフラ投資としての蓄電池は、何に似ているのか
- 48-16稼ぎは細るって言うけど、本当?
- 48-17海外の真似をして、日本で儲かるか
- 48-18蓄電池は、将来どれだけ必要なのか
- 48-19蓄電池は、どこに置いても同じなのか
出典
- ENTSO-E "Final Report on the Grid Incident in Spain and Portugal on 28 April 2025" 2026年3月20日/ENTSO-E プレスリリース同日(原因の整理)/理事会議長の発言(Science Media Centre España 2026年3月20日)
- スペイン政府 MITECO「4月28日の停電に関する委員会報告」2025年6月17日(電圧調整用火力10基のうち1基が不稼働)
- Red Eléctrica(REE)報告 2025年6月18日/REE 需要接続容量マップ 2026年2月20日(蓄電池の接続許可容量16GW)
- スペイン運用手順 P.O.7.4 改定 2025年6月12日、完全実施 2026年3月17日(再エネの電圧制御参加)
- 電力広域的運営推進機関 グリッドコード検討会(電圧・慣性・グリッドフォーミングの検討)