← 入口(19の問いの一覧)に戻る

データセンターが食うのは「席」です。席を新しく作る手段のなかでは、蓄電池がいちばん速い。

データセンターは、周波数をぶらす電源ではありません。一日中、ほぼ一定の量を使い続ける需要です。だから増えて困るのは調整力ではなく、暑い日と寒い日の夕方に「必ず動ける」発電の量、つまり席(容量)です。

日本の需要は、増加に転じた

日本の電力需要は人口減と省エネで長く減ってきました。第7次エネルギー基本計画はこれを反転させ、2040年度の発電量を1.1〜1.2兆kWh(2022年度比1〜2割増)と置きました。理由はデータセンター、半導体工場、電化です。電力広域的運営推進機関の2026年度の需要想定では、データセンターの立ち上がりは想定より遅れていますが、2034年度以降は前回想定を上回ります。

← 横にスクロールできます →

日本の発電量(億kWh)9,9112024年度 実績11,0002040年度 見通し(下)12,0002040年度 見通し(上)出典:経済産業省 令和6年度エネルギー需給実績(確報)2026年4月14日資源エネルギー庁 2040年度におけるエネルギー需給の見通し 2025年2月
図1 減り続けてきた需要が、2040年度は1.1〜1.2兆kWhへ増加に転じる見通し。

米国で起きたこと:席の値段が11倍

米国東部の送電機関PJMは、3年先の席を入札で買います。その値段が、2024/25年度の$28.92から、2025/26年度に$269.92、2026/27年度に$329.17、2027/28年度に$333.44(1MW・1日あたり)へ跳ね上がり、2028/29年度も$325で決まりました(2026年7月14日)。2026/27年度以降の3回は、価格の上限に張り付いた値です。PJMは2027/28年度の需要増5,250MWのうち約5,100MWをデータセンターとし、市場担当役員のスチュ・ブレスラー氏は「データセンターの需要が新しい供給をはるかに上回っている」と述べています。市場監視機関は、データセンターの需要見通しを含めたことで2027/28年度の落札総額が約6割(62億ドル)増えたと試算しました。テキサスの送電機関ERCOTには、2026年3月時点で約410GWの大型需要が接続を待ち、その87%がデータセンターです。

← 横にスクロールできます →

米PJM 席の値段($/MW・日)$28.922024/25$269.922025/26$329.172026/27$333.442027/28$325.002028/292026/27以降は上限価格で約定出典:PJM Base Residual Auction Report 各版、PJMニュースリリース 2025〜2026年
図2 席の値段は3回の入札で$28.92から$333.44へ上がり、2026/27年度以降の3回は上限に張り付いた。PJMは需要増の主因をデータセンターと明記している。

席をいちばん速く作れるのは蓄電池

席を増やす方法は3つです。火力を建てる、火力を残す、蓄電池を置く。火力の新設は計画から運転まで年単位で長く、残すには支払いが要ります(48-6)。蓄電池は平地に置け、英国では通常1〜2年で動き(日本では系統工事の待ちで3〜5年の案件もあります=48-13)、夕方の数時間に「必ず出せる」ことを約束できます。米PJMの2028/29年度では、4時間の蓄電池は定格の59%を席として数えられます。日本の容量市場でも、蓄電池は続けて出せる時間に応じた係数で席に数えられます(算定方法は別ですが、考え方は同じです)。

送電線の見通しも、データセンターで変わった

2026年9月1日、電力広域的運営推進機関は2031年度の送電線の混み具合の見通しを示しました。今回から、データセンターなどの大きな需要を「エリアの需要カーブに合わせて上下する需要」ではなく「一日中一定の需要」とみなし、一般の需要にだけカーブを当てはめる方式に変えました。これでデータセンターがある場所は、想定する需要量が増えます。効果は数字に出ていて、移行シナリオでは東京の出力制御量が前年想定から1,263GWh減りました。2031年度の想定には蓄電池2,409万kW(前年想定比+1,179万kW)と原発17基が置かれています。大きな需要を織り込むと、その場所の混雑と出力制御の想定は小さくなる。蓄電池をどこに置くかの判断に、データセンターの立地が効き始めています。

投資家の読み方
データセンターは席代を上げます。米国では3回の入札で11倍になり、日本でも需要は増加に転じました。ただし日本の容量市場の価格はPJMのようには動いていません(容量市場のコラム参照)。席として数えてもらうには「続けて出せる時間」が要り、容量市場の係数は時間で決まります。連系の年が近く、夕方に3〜4時間出せる蓄電所は、席の値段が上がる局面で先に現金化できる位置にあります。
この連載の問い
一、昔はなぜ蓄電池なしで回っていたのか
  1. 48-2昔は蓄電池がなくても回っていたよね
  2. 48-3回る機械が減った系統では、何が消えるのか
  3. 48-4なぜ「10秒」なのか
  4. 48-5再エネが増えるほど、調整力が要るのか
二、火力・原発・揚水では、なぜ足りないのか
  1. 48-6火力に調整させれば、足りるのでは
  2. 48-7原発が増えたら、蓄電池はいらなくなる?
  3. 48-8揚水を増やせば、足りるのでは
  4. 48-9市場で買えなかった調整力は、どこから来ているのか
三、これから電気の需要と電源はどうなるのか
  1. 48-10データセンターが増えると、なぜ蓄電池なのか(この記事)
  2. 48-11太陽光は、これからどうなる
  3. 48-12火力の量は、原発の稼働は、需要は
  4. 48-13蓄電池は、どれだけ増えるのか
四、お金と、国の本音
  1. 48-14国は、蓄電池を増やしたいのか
  2. 48-15インフラ投資としての蓄電池は、何に似ているのか
  3. 48-16稼ぎは細るって言うけど、本当?
  4. 48-17海外の真似をして、日本で儲かるか
  5. 48-18蓄電池は、将来どれだけ必要なのか
  6. 48-19蓄電池は、どこに置いても同じなのか
18の問いの先にある、ひとつの問い48-20 いくらで買って、いくら戻るのか答えは案件ごとに違う。だから公表値だけを目盛りにした計算機を置いた。単価・約定率・席代・差益・建設費を、自分で動かせる。

出典

この記事の監修
中島 晋也(サイエンスエックス株式会社 代表取締役・工学博士)

系統用蓄電池発電所の開発・売買・技術デューデリジェンスを手がける。本コラムは、実案件の組成と評価の実務に基づいて執筆・監修しています。