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回っていました。回る機械が、調整の仕事をただでしていたからです。

電気は貯めておけません。使う量と作る量を毎秒合わせ続けないと、周波数(東日本50Hz・西日本60Hz)がずれ、機械が止まります。このズレをその場で埋める力が「調整力」です。

昔の日本の電気は、ほとんどが火力・水力・原子力でした。どれも、大きな機械を回して発電します。回る機械には3つのおまけが付いています。

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火力・水力・原子力回って発電する機械はずみ(慣性)急な変化を、ゆっくりにする自動で出力を上下周波数のずれを、その場で戻す電圧を保つ止まると、隣の機械も外れるおまけ。値段なし、市場なし太陽光・風力回らない。おまけは付かない蓄電池回らないが、命令で1秒以内に出せる火力が減る → おまけが消える → 別に用意する(=調整力に値段がつく)
図1 回る機械のおまけ。火力・水力・原子力は発電のついでに、はずみ(落ち方をゆっくりにする惰性)・周波数を戻す力(減った分を埋め戻す動き)・電圧を保つ力を出していた。太陽光や風力は回らないので、おまけは付かない。

「はずみ」と「周波数を戻す力」は別の仕事です。自転車で言えば、はずみはペダルを止めてもすぐには止まらない惰性で、周波数を戻す力は誰かがペダルを踏み足すことです。発電所が1台落ちた瞬間、はずみが「落ち方をゆっくりにして時間を稼ぎ」、その数秒の間に、周波数を戻す力が「減った分を埋め戻し」ます。はずみは回る機械の重さそのもので、命令しなくても勝手に効きます。周波数を戻す力は、機械が周波数のずれを感じて出力を上下する動きで、市場で売り買いされる調整力の商品のうち、速いものにあたります。

この3つは、発電所を建てれば自動的に付いてくるものでした。だから誰も値段をつけず、市場もありませんでした。電力会社が自分の発電所で、当たり前にやっていた仕事です。

おまけに値段がついたのは、この10年

2016年に電力の小売が全面自由化され、2020年には送配電が法的に分離されました。送電を担う会社(一般送配電事業者)は、自分で発電所を持たない立場になります。そこで2016年度から、調整力を発電会社から「公募」で買う仕組みが始まりました。ここで初めて、おまけに値段がつきました。

2021年4月には全国共通の市場(需給調整市場)が開き、まず動きの遅い商品から取引が始まりました。動きの速い商品も2024年4月に揃い、5つの商品が全部市場で買われるようになりました。2026年3月からは前日に30分単位で取引する形に変わり、9月1日には値段の天井(上限価格)が10円になりました。

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調整力が「おまけ」から「商品」になるまで2016年度調整力の公募が始まる(値段がつく)2021年4月需給調整市場が開く(遅い商品から)2024年4月5つの商品が揃う(速い商品も市場へ)2026年3月前日・30分単位の取引に2026年9月上限価格10円
図2 日本で調整力が商品になった年表。公募(2016年度)から数えて10年、市場(2021年)から数えて5年しか経っていない。出典:経済産業省 2016年10月17日/資源エネルギー庁 2024年9月27日 第96回制度検討作業部会 資料3/EPRX。

はずみは、まだ値段がついていない

3つのおまけのうち、周波数を戻す力には市場ができました。しかし「はずみ」には、日本ではまだ値段がありません。太陽光と風力が増え、回る機械が減ると、はずみも減ります。電力広域的運営推進機関は2024年7月に、将来の電源構成の想定のもとで2050年に西日本の6つのエリアで、周波数の落ち方が基準(1秒あたり2.0Hz)を超えるという試算を示しました。対策の費用は年2.1〜8.2億円と見積もられています。はずみを別に用意する仕組み(同期調相機や、はずみを真似できる蓄電池)は、いま検討中です。

投資家の読み方
調整力は、日本では「値段がついて10年、市場になって5年」の若い商品です。若い市場は制度が動きます。次に来るのは「はずみ」と「速さ」に値段がつく段階で、回らない電源のなかでは蓄電池がいちばん出しやすい商品です。火力が減るほど、おまけを別に手当てする必要は増えます。
この連載の問い
一、昔はなぜ蓄電池なしで回っていたのか
  1. 48-2昔は蓄電池がなくても回っていたよね(この記事)
  2. 48-3回る機械が減った系統では、何が消えるのか
  3. 48-4なぜ「10秒」なのか
  4. 48-5再エネが増えるほど、調整力が要るのか
二、火力・原発・揚水では、なぜ足りないのか
  1. 48-6火力に調整させれば、足りるのでは
  2. 48-7原発が増えたら、蓄電池はいらなくなる?
  3. 48-8揚水を増やせば、足りるのでは
  4. 48-9市場で買えなかった調整力は、どこから来ているのか
三、これから電気の需要と電源はどうなるのか
  1. 48-10データセンターが増えると、なぜ蓄電池なのか
  2. 48-11太陽光は、これからどうなる
  3. 48-12火力の量は、原発の稼働は、需要は
  4. 48-13蓄電池は、どれだけ増えるのか
四、お金と、国の本音
  1. 48-14国は、蓄電池を増やしたいのか
  2. 48-15インフラ投資としての蓄電池は、何に似ているのか
  3. 48-16稼ぎは細るって言うけど、本当?
  4. 48-17海外の真似をして、日本で儲かるか
  5. 48-18蓄電池は、将来どれだけ必要なのか
  6. 48-19蓄電池は、どこに置いても同じなのか
18の問いの先にある、ひとつの問い48-20 いくらで買って、いくら戻るのか答えは案件ごとに違う。だから公表値だけを目盛りにした計算機を置いた。単価・約定率・席代・差益・建設費を、自分で動かせる。

出典

この記事の監修
中島 晋也(サイエンスエックス株式会社 代表取締役・工学博士)

系統用蓄電池発電所の開発・売買・技術デューデリジェンスを手がける。本コラムは、実案件の組成と評価の実務に基づいて執筆・監修しています。