← 入口(19の問いの一覧)に戻る

答えは案件ごとに違います。だから公表値だけを目盛りにした計算機を置きました。動かすのは、読む人の側です。

18の問いは、日本に蓄電池が要る理由と、稼ぎの中身が変わる理由でした。ここまで読んだ人が次に聞くのは、たいてい同じ問いです。「で、いくらで買って、いくら戻るのか」。案件の値段は案件ごとに違います。だから、この記事は数字を言い切りません。戻る額を決める目盛りを公表値で並べ、動かせる形で置きます。特別高圧でも高圧でも、同じ計算機で読めます。

自分で計算する

戻る額は、待機料・席代・差益から費用を引いたものです。下の計算機は、公表されている水準だけを目盛りにしています。初期値は50MW・4時間・単価9円・約定率90%。アグリゲータの見立て(席代を軸に、約定率20%前後)に動かすと、回収は長くなります。動かすのは、読む人の側です。

建設費
年収入(待機料+席代+差益)
年の手取り(費用を引いた後)
建設費を手取りで回収する年数
1kWあたりの年の手取り

単純計算(割引なし・単価は横ばい・電池の劣化と更新は含まない)。土地、系統の工事費負担金、開発の権利、金利は別。数字を決める前提は上の目盛りのとおりで、案件ごとに違います。

目盛りの出どころは全部公表値です。単価はEPRXの約定結果、席代は容量市場の約定価格、差益は当社の2MWの実測、建設費は経済産業省の検討会資料(補助事業の平均6.8万円/kWh、50MWh超のシステム4.9万円+工事1.4万円、海外製・補助なしで2〜4万円)。2時間か4時間かは、何で稼ぐかで決まります。一次調整力(応動10秒・継続5分以上)と二次①(30分)は2時間で座れ、3時間続ける複合商品と席代を厚く取るなら3〜4時間で、建設費はその分増えます。

この計算機に、案件の実数(エリアの募集量、席の空き、連系の年、建設費の見積り、約定率の実測)を入れた3つのシナリオを、当社は案件と一緒にお示しします。

約定率は、どこで決まるか

表の縦軸(単価)は公表値で読めます。横軸(約定率)は、案件ごとに違います。決めるのは「そのエリアの募集量に対して、自分が何MWか」と「誰と競うか」です。

← 横にスクロールできます →

蓄電池が座る席は2種類。埋まり方が違う(2026年8月)一次オフライン枠(10MW未満の蓄電池だけの席)東京席92/落札73MW中部席74/落札46MW関西席92/落札31MW九州席62/落札31MW空席:東京20%、中部39%、関西66%、九州52%一次オンラインの席(10MW以上はここ)火力・揚水・蓄電池が同じ席で競う全国の募集量は約1,500MW/コマ北海道・四国・九州・中国: 不足率1%以下=揚水と火力で埋まっている東北・北陸:まだ4分の1ほど空き火力の落札単価:2.05〜3.39円(2025年度)→ 大きな蓄電池は、火力より安い札で 席を取りに行く出典:EPRX 取引実績(2026年8月・速報)から当社集計(47-3)/EPRX「2025年度の取引実績について」2026年6月18日
図2 蓄電池が座る席は2種類。10MW未満の蓄電池だけの枠(一次オフライン)はまだ半分空いている。10MW以上が座るオンラインの席は、多くのエリアで揚水と火力が埋めていて、火力より安い札で取りに行く。

10MW未満の高圧の蓄電池には、蓄電池だけが座れる枠(一次オフライン)があります。全国で約500MW/コマ、2026年8月の時点で東京は8割埋まり、中部・九州は4〜5割、関西・中国・北海道は6〜8割が空席です(47-3)。10MW以上の特別高圧は、この枠に入れません。座るのはオンラインの席で、そこでは火力・揚水と同じ札で競います。北海道・四国・九州・中国のオンラインの席は不足率1%以下、つまり揚水と火力で埋まっていて、東北・北陸に4分の1ほど空きがある状態です。火力の落札単価は2025年度で2.05〜3.39円(EPRX)。大きな蓄電池が高い約定率を取るには、火力より安い札を入れる必要があり、それが表の下の行(3円・4.4円)の意味です。

ここが、当社とアグリゲータで見立てが分かれる場所です。アグリゲータは席代を軸に、調整力を上乗せとして低い約定率で見ます。当社は調整力を軸に置き、約定率と単価を3本のシナリオで振ります。どちらが正しいかは、エリアの募集量(47-2)と席の埋まり方(47-3)を案件の規模と並べて初めて分かる。だから当社は、案件ごとに、表のどのマスにいるかを示します。

高圧2MWの実測

高圧2MW/8MWhは、実測の年商が公表できます。9管区の直近12か月で、2MWあたり概算4,000万〜8,600万円(kWあたり2.0万〜4.3万円/年)。首位と最下位で2倍違い、うち容量市場と差益の「床」だけで4,340万〜5,841万円、調整力が上に乗ります(コラム「同じ2MWが、年2.9億円にも6千万円にもなる」)。建設費は5〜6億円が目安(日経エネルギーNext)、6.8万円/kWhなら5.4億円です。

買い手は、国内の事業会社と、海外の資金の両方です。国内の事業会社には、2026年7月31日に施行された「大胆な投資促進税制」の即時償却が効きます。自社で取得して事業に使う場合、取得価額を初年度に一括で損金にできる可能性があります(要件と通し方はコラム45・22)。分配や回収の時期は変わりません。効くのは投資家側の税です。

公表されている利回りの水準

利回りの絶対水準は、公表されているものを引きます。三菱総合研究所が経済産業省の検討会に出した感度分析では、収益を契約で固定しない場合、容量市場の収入を入れてもベースのIRRは−1.5%(建設費6万円/kWh・4時間)。建設費5万円/kWhで0.4%、3万円/kWhで卸の値差が上振れれば約14%です。契約で固定すると、特別高圧47MW/188MWh(4時間)の一般例で、借り上げ(トーリング)に容量市場を重ね、借入75%なら株主の利回りは18%台(コラム30)。上の1kWの表を2時間型の建設費に当てると、この公表水準の外側に出ます。差は約定率と単価の見立てで、当社は案件ごとに3シナリオで示します。前提が書いていない利回りは、どの会社のものでも、まだ土台の決まっていない数字です。

越える関門は5つ

← 横にスクロールできます →

海外の資金が日本の蓄電所を買うとき、越える関門外為法電気業は指定業種事前届出の公算5万kW未満は非コア収入割赤字でも売上に課税標準0.75%ΔkWの扱いは県税に照会消防・立地容量20kWh超は届出建物から3m以上調整区域は開発許可連系待ち3〜5年待ちの案件あり連系日が確定した案件を買う運用委託毎日47コマの入札をアグリゲータに委託報酬は市場収入の5〜15%
図3 5つの関門と、それぞれの越え方。出典:財務省 対内直接投資の指定業種・コア業種告示/地方税法(電気供給業の収入割)/消防法・火災予防条例(2024年1月〜kWh基準)/資源エネルギー庁 次世代電力系統WG/RE100電力の公表料率ほか。
  1. 外為法。電気業は対内直接投資の指定業種で、外国資本による取得は事前届出の対象になる公算が高い。ただし「コア業種」は最大出力5万kW以上の発電事業者に限られ、数十MWの特別高圧も2MWの高圧も規模ではコアに当たらない見込みです。手続きは重いが、越えられる関門です(コラム24)。
  2. 収入割。地方税法は電気を売っていれば「電気供給業」とみなし、利益が出ていなくても売上に課税します(標準0.75%)。需給調整市場の収入が対象に入るかは県税事務所への事前照会で確定させます(コラム31)。
  3. 消防と立地。容量20kWh超で消防への設置届出、屋外は建物から原則3m以上。市街化調整区域は開発許可と消防を通せば置けますが、自治体次第です。用地契約の前に事前協議を。
  4. 連系待ち。接続検討1億7,200万kWに対し連系済み64万kW(48-13)。系統側の工事が3〜5年待ちの案件があります。海外の資金が買うべきは「連系日が確定した案件」か「動いている案件」で、当社の技術デューデリジェンスはそこを見ます。
  5. 運用の委託。毎日47コマの入札と容量市場のルール対応は、オーナーが自分でやる仕事ではありません。アグリゲータに委託し、報酬は市場収入の5〜15%(公表はRE100電力の5%のみ)。実績の開示が細かいアグリゲータを選ぶことが、銀行を付けるときにも効きます。

出口はあるのか

← 横にスクロールできます →

蓄電所を買う側は、この2年で増えた(公表分)関西電力2030年代早期に約100万kW。きんでん・MUFGと25万kW・65億円のファンド(2026年6月)東京ガス20年の借り上げ3件・110MW、運用予定6件・300MW(2025年6月)銀行・証券多奈川99MWにフルマーチャント型PF(2025年)。新潟49MWに社債100億円、高圧14サイトに49億円のPF(2026年4月)ファンド伊藤忠商事 80億円超(2024年)。芙蓉総合リースなど8社で6地点・174MW(2026年3月)出典:各社プレスリリース(本文の出典欄)
図4 買い手は電力会社と、その周りの資金。関西電力は2030年代早期に約100万kWを掲げ、東京ガスは20年の借り上げを積み上げ、銀行・証券・ファンドが付き始めた。

あります。買い手は電力会社と、その周りの資金です。関西電力は2030年代の早期に約100万kWの蓄電所を開発する目標を掲げ、きんでん・MUFGと約25万kW・65億円のファンドを作りました(2026年6月)。東京ガスは20年の借り上げを3件・110MW、運用予定を6件・300MWまで積み上げています。多奈川99MW(関西電力40%出資)には国内初のフルマーチャント型プロジェクトファイナンスが付き、新潟の49MWには100億円の社債が付きました。伊藤忠商事の蓄電所ファンド(80億円超)、芙蓉総合リースなど8社の6地点・174MWのSPC。開発の途中で入る資金と、完成間近に買う資金の両方に席があり、価格の差は時間と工事のリスクの対価です。

当社の立ち位置

当社は90件超の案件情報を持ち、連系済み・連系確定の蓄電所の技術デューデリジェンスと売買を手がけています。海外の資金には特別高圧を中心に高圧も、国内の事業会社には即時償却の効く型を。案件ごとの数字は、上の表のどのマスにいるかを明示した3シナリオで、案件と一緒にお示しします。

投資家の読み方
戻る額は、待機料(単価×47コマ×365日×約定率)+席代+差益から費用を引いたもので、目盛りは全部公表値です。決め手は約定率と単価で、それは「エリアの募集量に対する自分の規模」と「火力より安い札を入れるか」で決まります。上の計算機を、アグリゲータの見立て(席代を軸に約定率20%前後)と当社の見立ての両方で動かしてみてください。案件ごとの3シナリオは、案件と一緒に。
この連載の問い
一、昔はなぜ蓄電池なしで回っていたのか
  1. 48-2昔は蓄電池がなくても回っていたよね
  2. 48-3回る機械が減った系統では、何が消えるのか
  3. 48-4なぜ「10秒」なのか
  4. 48-5再エネが増えるほど、調整力が要るのか
二、火力・原発・揚水では、なぜ足りないのか
  1. 48-6火力に調整させれば、足りるのでは
  2. 48-7原発が増えたら、蓄電池はいらなくなる?
  3. 48-8揚水を増やせば、足りるのでは
  4. 48-9市場で買えなかった調整力は、どこから来ているのか
三、これから電気の需要と電源はどうなるのか
  1. 48-10データセンターが増えると、なぜ蓄電池なのか
  2. 48-11太陽光は、これからどうなる
  3. 48-12火力の量は、原発の稼働は、需要は
  4. 48-13蓄電池は、どれだけ増えるのか
四、お金と、国の本音
  1. 48-14国は、蓄電池を増やしたいのか
  2. 48-15インフラ投資としての蓄電池は、何に似ているのか
  3. 48-16稼ぎは細るって言うけど、本当?
  4. 48-17海外の真似をして、日本で儲かるか
  5. 48-18蓄電池は、将来どれだけ必要なのか
  6. 48-19蓄電池は、どこに置いても同じなのか

出典

この記事の監修
中島 晋也(サイエンスエックス株式会社 代表取締役・工学博士)

系統用蓄電池発電所の開発・売買・技術デューデリジェンスを手がける。本コラムは、実案件の組成と評価の実務に基づいて執筆・監修しています。